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読売新聞の顕彰事業


読売文学賞

戯曲・シナリオ賞 西川 美和 「ゆれる」

暴き出される「心」

 純愛、癒やし、難病、家族愛といった安易なところで感動を作り出そうとする作品が多いなか、西川美和さんの「ゆれる」は、観客に媚(こ)びることなく人間の心の奥底、闇をぎりぎりまで描き切ろうとする力作である。

 兄弟の対立を描いている。弟は東京に出てカメラマンとして成功した。派手な暮しをしている。兄は故郷に残り、父親と共に小さなガソリンスタンドを経営している。三十代なかばだが独身。女性には縁遠い。この故郷に残った地味な兄と出郷者の弟の対比は、地方と東京の格差とも重なっていて作品に深みを与えている。

 母親の一周忌で弟が故郷に帰ってくる。兄がひそかに思いを寄せていた若い女性と寝てしまう。その女性が兄と一緒にいた時、吊(つ)り橋から落ちて死ぬ。事故死か殺人か。兄は逮捕され、やがて法廷で兄弟は対決する。

 裁判劇の面白さもある。地元では「いい人」といわれてきた兄の心の闇が法廷で徐々に明らかになってゆく過程は心理描写がみごと。まさに兄の心がゆれる。

 兄と弟、どちらかが悪いというのではない。人の心を黒か白かで見ることは出来ない。誰もがその中間の灰色のなかにいる。その部分を怖しいほどに深く掘り下げてゆく。兄と弟は傷つけあい、共にボロボロになる。その先きにかすかに希望が見えるラストに感動する。人気小説の映画化が多いなか、オリジナルの脚本に挑んだ意欲も買いたい。(川本三郎)

 にしかわ・みわ 映画監督。1974年広島県生まれ。早大在学中に是枝裕和監督と出会い、映画「ワンダフルライフ」にスタッフとして参加。2002年、家族の崩壊を描いた「蛇イチゴ」で脚本・監督デビュー。06年公開の「ゆれる」で、毎日映画コンクール日本映画大賞、キネマ旬報日本映画脚本賞。