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第14回(2007年度)読売国際協力賞

岸田袈裟(けさ)氏 アフリカ民間ボランティア活動家

 国際協力活動で模範となるような個人や団体を顕彰する読売国際協力賞の第14回受賞者は、アフリカ民間ボランティア活動家、岸田袈裟さん(64)に決定した。正賞と副賞500万円。
 岸田さんは東アフリカのケニアで30年にわたり、栄養学専門家の立場から住民の衛生指導、生活改善に取り組み、日本伝統の「かまど」普及に励み、煮沸した飲料水の奨励によって乳幼児の死亡率減少や燃料用薪の使用量削減に貢献した。また草履作りを教え、薬草・薬木の普及など「台所からの発想」の大切さを説き、健康と生活レベル向上を図る独自の手法で成果を上げている。
 アフリカの厳しい風土の中で、日常生活の視点に立った支援活動は、個人が実行できる国際協力のモデルとして高い評価を受けた。


写真:岸田袈裟氏
表彰を受ける岸田氏(左)
岸田袈裟(きしだ・けさ)さん
 1943年岩手県遠野市生まれ。相模女子大卒。食糧産業研究所で30か国以上の栄養調査を実施。75年からケニアを調査拠点に。国際協力機構(JICA)専門家を経て、現在、ケニア西部ビクトリア湖小島群でHIV感染防止教育を実施中。夫の信高さんと1男1女。

衛生・健康・孤児の進学

 貧困と感染症に今もなお多くの人々が苦しむアフリカ。そのアフリカ東部にあるケニアで困難な状況を乗り越え、30年にわたって住民の衛生・健康面での生活改善や、孤児の教育支援に取り組んできた岸田袈裟(けさ)さん(64)が今年の読売国際協力賞に決定した。14回目となる同賞で、アフリカを活動拠点とする人の受賞は初めて。また、女性の個人受賞という点でも第1回の緒方貞子さん以来となった。日本を遠く離れ、全く異なる自然環境の下、言葉や生活習慣の違いなど数々の困難を持ち前の明るさで克服、住民の信頼を勝ち得てきた岸田さんの人柄には、日本国内でも多くの共感の輪が広がっている。

「地域の母」信頼厚く

 「ママ・キシダ!」

 ケニア西部、首都ナイロビから西へ約400キロ・メートル。赤道直下にあるエンザロ村には、赤土の道の両側に土壁の家々が点在する。岸田さんが人口約2000人の山あいの村の様子を見に立ち寄ると、女性たちが歓声をあげて駆け寄り、次々に抱きついた。

 「ママの長年の活動のおかげで、地域の暮らしが一変した。まさに地域の母親なのです」。ロナルド・オヤンド村長(45)は、「ママ」と呼び親しまれる岸田さんに心から感謝する。

 岸田さんが、村に初めて足を踏み入れたのは1991年。当時は人口抑制教育に取り組む国際協力機構(JICA)のボランティアだった。

 村はケニアでも最も貧しい地域にあった。乳幼児が下痢やマラリアで次々に死亡するため、母親は8人以上の子どもを産むのが当たり前だった。

 「子供が死なないようにならなければ、出生率は下がらない」

 飲み水で感染する病気を防ぐために水を煮沸したいと思ったが、燃料となる薪拾いは女性たちにとって重労働でもあった。石の上に鍋を置く熱効率の悪い従来の方法では、調理用の薪を集めるだけで精いっぱいだったのだ。

10万世帯にかまど普及

 そこで思いついたのが、かつて岸田さんの故郷、岩手県遠野市で使われていたかまどの活用だ。1つのたき口で3つの鍋を同時に温めるよう工夫し、1つを水専用とした。

 「子供が病気をしなくなった上に、やけどの心配もない。腰も痛まないし、薪も節約できて、本当にいいことずくめなのよ」。14年間使っている自宅のかまどの前で、村の助産師セリナ・ンボガさん(70)が笑顔を見せる。

写真:ケニア西部でかまどを使う住民
ケニア西部エンザロ村でかまどを使う住民。煮沸消毒した水が常備できるようになり、村の病気が減った

 電気も水道もない村で、かまどの効果は革命的だった。村の全世帯に3か月足らずで普及した。口コミで近隣集落にも次々と伝わり、2003年には、ケニア各地の約10万世帯にまで広がっていた。

 ほかにも、岸田さんは村の水源となるわき水に、石や砂を利用した浄水施設を設置したり、素足の子供たちが自分で作ってはける草履を紹介したりした。女性グループも設立して保健衛生教育を徹底し、副収入を得るために洋裁や養鶏も導入した。

 次第に、病気が減り、乳幼児死亡率も激減した。子供を失う不安から解放された親の間に「家族計画」の考え方が浸透し、子供の数は一家庭3〜5人に減少した。

 「私はいつも台所から発想するの。どこを訪ねても台所から入って、改善した方が良い点を指摘して回るの」と岸田さん。

 教育を受けた層が使う英語ではなく、庶民に広く使われるスワヒリ語を話し、地域に溶け込む。そして、地域にある物で生活を改善できるよう工夫を凝らす。

 岸田さんは元々、栄養学の研究のためにケニアを訪れた。75年からナイロビに住んでいる。現地在住の日本人実業家と結婚し、1男1女に恵まれた。子育ての傍ら、ケニア各地で「食と命」をテーマに研究を継続するが、同時に、糖尿病患者の栄養指導や、孤児院の支援も行ってきた。

 JICA専門家を務めたのは03年まで。その後は、85年に設立に携わった民間活動団体(NGO)「少年ケニヤの友」を通じて活動している。

 ケニアでは現在、エイズウイルス(HIV)感染の拡大から、エイズで親を亡くした孤児の増加が社会問題となっている。孤児院支援だけでは追いつかず、地域ぐるみの支援体制の確立を目指している。

 HIV感染率が特に高いビクトリア湖の島々では、モーターボートによる巡回医療や、感染予防教育を実施する。地域に残った唯一の熱帯雨林「カカメガの森」周辺では、エイズ患者への食事指導や、薬草、薬木の植林を通じた環境保全教育にも力を入れている。

写真:岸田袈裟氏
ケニア西部「カカメガの森」近くの集落で、エイズ患者らと談笑する岸田さん(中央)

 土曜も日曜もなく、未舗装の道を四輪駆動車で走り回る日々。疲れを知らない積極的な活動を支えているのは、20年間師事した実践栄養学の第一人者、川島四郎氏の教えだ。

 「栄養学こそ、人々に還元する学問だ」。戦時中から日本人の健康維持に尽力した亡き恩師のこんな言葉を胸に、赤茶けた大地で学んだ知識をフル活用する。それは、言葉も分からずに異境に飛び込んだ自分を温かく受け入れてくれた、アフリカの人々への恩返しでもある。


「尊敬すべき業績」  選考委員会座長・浅尾新一郎

 14回目になる読売国際協力賞ですが、女性の受賞者は第1回の緒方貞子さん(国連難民高等弁務官)以来2人目、アフリカを活動の舞台とされている方も初めての受賞です。

 国連ミレニアムサミットでもアフリカへの支援が大きなテーマになりました。困難な地域で30年にもわたって支援を続けて来られたのは、大変、尊敬すべき業績との意見が各委員からも出され、満場一致で受賞者に決定いたしました。


(2007年10月13日 読売新聞)