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2007年8月2日(木) 高校生講座「小柴教室」東京

高校生講座「小柴教室」

 ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「21世紀の創造」の「高校生講座 小柴教室」が8月2日、東京・上野の国立科学博物館で開かれた。2002年に物理学賞を受賞した小柴昌俊・平成基礎科学財団理事長が、巨大な装置を使ったニュートリノ観測の仕方について30人の参加者に講演。その観測をテーブル上で再現する実験を、市川温子・京都大学准教授が指導した。(文中敬称略)


▽受賞者
 小柴昌俊 平成基礎科学財団理事長(2002年物理学賞)
▽科学実験指導
 市川温子 京都大学理学研究科准教授
▽モデレーター
 横山広美 東京大学大学院理学系研究科准教授


講演小柴昌俊氏「大きいこと、小さいこと」

写真:小柴氏
こしば・まさとし
1926年愛知県生まれ。東京大学理学部物理学科を卒業後、米ロチェスター大大学院などを経て、70年に東大理学部教授。2003年10月より現職。大マゼラン星雲の超新星爆発で生じたニュートリノの観測に成功し、ニュートリノ天文学の道を開いた業績で02年に物理学賞を受賞。

「山勘」を突き詰めて ――ニュートリノ観測の挑戦

 東京大学の助教授になって、大学院の学生に初めて講義をすることになった。1964年のことだ。黒板の左端に「宇宙」、右端に「素粒子」、真ん中には「ニュートリノ」と書き、「山勘だが、大きな宇宙と小さな素粒子の二つを結びつけるのは『ニュートリノ』だろう」と説明した。

 物質を小さく分けていくと、原子になり、原子核になり、さらにこれを分けると、陽子と中性子。それよりさらに小さいのが素粒子だ。

 電子顕微鏡でも見えない小さい素粒子は、どうやって観測できるのか。

 よく晴れた日に、飛行機が通った跡に白い飛行機雲を見ることがある。ジェット機そのものは見えなくても、どの方向にどんな速さで飛んでいるか、この雲を観察すればわかる。

 きれいな水をたくさん用意して、そこを通過する素粒子ニュートリノを水の電子に衝突させる。それを狙って我々が作ったのが、岐阜県にある鉱山の地下1000メートルの観測装置「カミオカンデ」だ。

 ニュートリノは、皆さんの頭を毎秒1000億個以上も貫通している。カミオカンデには3000トンの水をため、太陽から来たニュートリノを計測しようとした。

 だがニュートリノの反応は、多くても1週間に1発か2発。巨大なアメリカの装置に負けないよう、感度の高さで勝負しようと思った。反応で生じる光をとらえる高精度の光電子増倍管を取り付け、87年に観測を始めた。

 運がいいことに、大マゼラン星雲の超新星が爆発した際に飛び出たニュートリノも観測できたし、ニュートリノの質量がゼロではないことを示すニュートリノ振動という現象も、後の研究で発見できた。山勘で始まったニュートリノの研究だが、本気で突き詰めて考えることで実りのあるものになった。


科学実験市川温子氏「豆カミオカンデで宇宙線をとらえよう」

写真:実験の様子
ミュー粒子をとらえる実験に取り組む参加者

ミュー粒子「見えた!」

 宇宙から大量に降り注ぐ宇宙線。そのうち「ミュー粒子」と呼ばれる宇宙線は、手のひら大に毎秒1個ほどやってくる。30人の生徒たちは、市川温子・京都大学准教授の指導で、人間の体など通り抜けてしまうこのミュー粒子をつかまえる実験に挑んだ。

 小柴昌俊さんが、宇宙から来る謎の粒子ニュートリノを捕らえるために建設したのが巨大観測装置「カミオカンデ」。生徒たちが作る実験装置はカミオカンデと原理が同じで、その名も「豆カミオカンデ」だ。

 本物のカミオカンデは、深さ16メートル、直径16メートルの巨大な円筒の内壁を、直径50センチの電球型センサー「光電子増倍管」がびっしりと埋めている。これで、円筒内の水とニュートリノが反応して出す微弱な光をとらえる。

 市川さんは、直径5センチのミニ増倍管とガラス瓶、ミュー粒子を光に変える「シンチレーター」というプラスチック材料、それに黒い遮光シートをそろえた。まず生徒たちは、瓶に水を満たし、ミュー粒子が水と反応して出す弱い光をとらえる増倍管とテープで固定。同じ要領で、もう1本の増倍管には、水の代わりにシンチレーターを取り付けた。

 ミュー粒子は、地球の大気を通過すると、別の粒子に姿を変える。だから、大気の層が一番薄い真上から来る量が一番多い。

 そこで生徒たちは2つの増倍管を縦に連結し、垂直に立てて観測に入った。もし両方の増倍管が同時に反応すれば、それが真上から飛び込んだミュー粒子だ。

 「見えた!」「おっ、来た」。表示装置に映した2種類の増倍管の観測波形が、あちこちのテーブルで振れる。自然を観測したいという科学者の情熱と知恵を目の当たりにして、次々と歓声があがる。

 渋谷教育学園渋谷高校1年の小池宇織さん(15)は、「見えないものを見ているということが、とても興味深い。将来は技術者になりたいと思った」と生き生きした表情で話す。埼玉県立大宮高校1年の木原隆博さん(15)も、「シートを巻くのが難しかったけど、みんなで協力して実験は成功した。楽しかった」とうれしそうだった。


質疑応答

カミオカンデのアイデア、どうして浮かんだの?

東京都・東京工業大付属科学技術高3年 カミオカンデのアイデアはどのようにして生まれたのか。

小柴 米クリーブランドにある岩塩坑にたまった水は、食塩が溶け込んでバクテリアも繁殖しない透明できれいなもので、こんな場所に光電子増倍管を設置すれば、ニュートリノも観測できるのではという考えが浮かんだ。

神奈川県・厚木東高2年 宇宙はどこまで解明できるのか。

小柴 宇宙の観測は今後も進むだろうが、一番困難なのは人間を知ること。自然科学は、観測する主体と、される客体を分けてきた。人間自身を見つめる研究は、それが分けられない。実に難しいと思う。

埼玉県・大宮高1年 ニュートリノ研究を他分野へ応用できるのか。

小柴 それは難しい。だが、精度よく観測すれば、137億年前のビッグバンで生まれた直後の宇宙の姿をとらえられる。

埼玉県・大宮高1年 研究者の倫理観とは。

小柴 科学はもろ刃の剣。有益な研究も、使い方によって害が起きる。核爆弾がその典型で、研究者は、これが人類の上に落とされるなんて思わなかったと思う。使う人が、その影響を十分に考える必要がある。


主催=読売新聞社、NHK
後援=外務省、文部科学省
協賛=トヨタ自動車、日本航空、清水建設、第一三共
協力=国立科学博物館、高エネルギー加速器研究機構

(2007年9月16日 読売新聞)