トップ > 調査研究本部 > ノーベル・フォーラム > 2008高校生講座




2009年 高校生講座(7月21日・横浜、27日・大阪)

2009年 高校生講座

 ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「21世紀の創造」(読売新聞社など主催)の「高校生講座」が7月下旬、横浜市と大阪市で開かれた。2人の日本人受賞者が受け持つ講座に、2会場合わせて58人の高校生が参加。ノーベル賞の業績に関係する実験を通じて、科学の面白さを味わい、受賞者との交流を楽しんでいた。(文中敬称略)


「小柴教室」   2009年7月21日(火)、横浜市鶴見区・横浜サイエンスフロンティア高校

  平成基礎科学財団理事長・小柴昌俊氏(2002年ノーベル物理学賞)

見えない世界「見えた」

 さまざまな粒子が空中を飛んでいる。雨粒や砂粒は、目に見え、肌で感じられる。だが、原子や、もっと小さな粒子を見るには、工夫が要る。小柴さんは、最も捕まえにくい素粒子の一つ「ニュートリノ」を、巨大な水槽を使った装置「カミオカンデ」で観測した。

写真:小柴氏

 集まった32人の高校生たちは、山下了・東京大学准教授の指導を受けながら、手作りの装置で、小さな粒子の観測に挑戦した。

 最初に作ったのは「アルファ粒子」を検出する「霧箱」だ。直径10センチの丸いプラスチック容器の内側にスポンジを張り、中心にオイルランプの芯を固定する。スポンジにアルコールを含ませ、ふたをして底をドライアイスで冷やすと、線香花火のような白い筋が、芯から放射状に現れた。

 芯に含まれる微量の放射性物質が壊れる時、アルファ粒子が飛び出す。それがアルコールの蒸気中で小さな飛行機雲を作るのだ。

「あ、きたきた」。実験室のあちこちから声が上がる。「霧の筋はとても神秘的」と、横浜サイエンスフロンティア高1年の宮崎翔太郎さんは声を弾ませた。

 次に挑戦したのは、「豆カミオカンデ」による観測。ミュー粒子という宇宙線が水の分子と反応して出た光を、カミオカンデと同じ原理でとらえるのだ。

 水を入れた容器と光電子増倍管をテープでくっつけ、銀色の反射シートと、光を遮る黒いシートを巻き付ける。ケーブルを接続すると、測定器の画面に宇宙線を検出した波形が現れた。各グループで検出した個数は、ほぼ同じだった。生徒たちは、宇宙から降り注ぐ粒子の存在を実感した。

 実験後、小柴さんが「宇宙、人間、素粒子」と題して講演。「いろいろなことが分かってきたが、未知のこともたくさんある。それを一つひとつ解いていくのはあなたたちだ」。小柴さんは、そう呼びかけた。

質疑応答

写真:実験の様子
霧箱でアルファ粒子の飛跡を観測する高校生たち

「本気なら、失敗感じない」 /小柴

生徒(横浜サイエンスフロンティア高1年) 一番印象に残る実験は何か。

小柴 昔、宇宙線観測装置を大きな風船にぶら下げ、米大陸を横断させた。当時としては大変な成功で、とてもうれしかった。

生徒(神奈川・湘南高3年) 大金を投じた実験がうまくいかなかったらと、不安にならなかったか。

小柴 カミオカンデの最初の目的は、陽子崩壊の観測だった。宝くじ当選を期待するようなもので、国民の血税を使っていいのか悩んだ。ほかの実験にも使えるように改造した結果、ニュートリノを検知できた。

生徒(東京・早稲田大学高等学院1年) ビッグバン(宇宙誕生の大爆発)はどのように起こったか。

小柴 いま究極とされる物理理論で考えても、正確な答えはわからない。

生徒(東京・星美学園高1年) 失敗をどう成功につなげるのか。

小柴 本気になってやれば、困難が起きてもやめようと思わないし、失敗と感じない。何とか結果を出そうと向かっていくものだ。





「白川教室」   2009年7月27日(月)、大阪市住吉区・大阪府教育センター

  筑波大学名誉教授・白川英樹氏(2000年ノーベル化学賞)

写真:白川氏

常識も疑って大発見


 高校生26人が取り組んだのは、透明スピーカー作り。電圧をかけると伸び縮みする「圧電フィルム」の両面に、音声信号を伝える「導電性プラスチック」の膜を張り、フィルムを振動させて音を出す実験だ。導電性プラスチックは、白川さんの受賞業績でもある。

 導電性プラスチックの材料は「エチレンジオキシチオフェン」という物質。この分子がたくさんつながると、その中を電子が流れる。

 実験は、机に敷いた濾紙(ろし)に、圧電フィルムをテープで止める作業から始まった。次にエチレンジオキシチオフェンと触媒を混ぜ、フィルムに垂らし、ガラス棒で延ばして広げていく。

「途中で棒を止めたり、戻したりするとうまく膜ができないかも」。こわごわ手を動かす生徒たちに、白川さんはコツを説く。フィルム表面は茶褐色から薄い藍(あい)色に変わり、分子がつながっていく様子が見て取れた。

 両面に膜ができたら、フィルムの4辺に導電性テープを張り、アンプを接続する。音源は各自の携帯電話や携帯プレーヤーだ。生徒の1人(大阪・大谷高2年)がプレーヤーを操作すると、フィルムから軽快なJポップが流れた。「すごい。はっきり聞こえる」

 実験室中で流行曲やクラシックが流れ出した。「フィルムを丸めると空気が振動して音が大きくなるよ」。スピーカーをたわませると、騒々しさが倍増した。

 白川さんは、失敗や偶然が大発見につながる「セレンディピティー」の講義もした。導電性プラスチックもセレンディピティーの産物だ。「好奇心を持ち、すべてを観察し記録する。常識も疑い、分野にこだわらず何でも学んでほしい」

 生徒たちの緊張感はすっかり消え、実験後は白川さんを質問攻めに。別の生徒(大阪・北野高1年)は「僕も世の中にない新しいものを作りたい」と満足そうにほほ笑んだ。


質疑応答

写真:実験の様子
スピーカーの音が鳴り喜ぶ高校生と白川さん

「研究者だって、恋をする」/白川

 
生徒(和歌山信愛女子短大付属高1年) 化学の今後の使命は。

白川 一つの方向は、生物学と結びつき、難病の遺伝子の解明や創薬などに貢献すること。遺伝情報には個人差があり、同じ病気でも患者によって薬を変えた方がいい場合がある。

生徒(大阪・清風南海高3年) 研究生活で挫折した経験は。

白川 好きなことをやってきたので、挫折を感じたことはない。嫌になることはあっても、気分転換すれば忘れられる。みんなも多彩な趣味を持ってほしい。

生徒(大阪・大手前高2年) 覚えたことを忘れない良い勉強法を教えて。

白川 繰り返し覚えることだ。一つずつ内容を理解しながら繰り返し学ぶ。時間のかからない、うまい方法はないと思う。

生徒(大阪・高津高2年) 初恋はいつごろか。研究に没頭する人は、恋愛などしない印象がある。

白川 研究者だって恋をする。しょっちゅう恋していたから、どれが初恋だったか覚えてない。



主催=読売新聞社、NHK
後援=外務省、文部科学省、科学技術振興機構
協賛=トヨタ自動車、日本航空、清水建設
協力=横浜サイエンスフロンティア高校、大阪府教育センター

(2009年8月5日 読売新聞)