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2007年7月7日(土) 読売国際女性アカデミア21(東京)

「女性は格差をなくせるか―アジアで、日本で」

意外に貧困 日本女性  就労環境 本気で整備

 豊かと言われる日本。経済発展の課題を抱えると言われるASEAN(東南アジア諸国連合)。しかし、女性の経済力に関しては共通の問題があるのではないか。7日、東京・国連大学で開催された「読売国際女性アカデミア21」(読売新聞社、女性人権機構、外務省、国連大学共催)では「女性は格差をなくせるか―アジアで、日本で」と題して、グラミン銀行総裁で昨年度ノーベル平和賞受賞者、ムハマド・ユヌスさんが講演。坂東真理子・昭和女子大学長や、樋口美雄・慶応大学教授、桜井陽子・(財)横浜市男女共同参画推進協会統括本部長らが、日本の女性の貧困を巡って討論した。ASEANからの代表者を含む約300人の聴衆は、アジア各国と日本を比較しながら、女性支援の実例などに熱心に聴き入っていた。(文中敬称略)


▽基調講演
 ムハマド・ユヌス グラミン銀行総裁
▽パネル討論(順不同)
 坂東真理子 昭和女子大学長
 樋口美雄 慶応大商学部教授
 桜井陽子 (財)横浜市男女共同参画推進協会統括本部長
 伊藤ゆみ子 マイクロソフト株式会社執行役、法務・政策企画統括本部長
 清水照子 長野県中野市議、前 女性農業経営者会議会長
▽コメンテーター
 アポロニア・トレンティーノ フィリピン・女性の役割委員会委員
▽コーディネーター
 北村節子 読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員

基調講演ムハマド・ユヌスさん「女性への融資は生きる」

写真:ムハマド・ユヌスさん
Muhammad YUNUS
 1940年、現在のバングラデシュ生まれ。チッタゴン大学で経済学を専攻。米国留学後、同大経済学部長に。74年の洪水と飢饉を機に貧民支援に乗り出し、83年、無担保・少額融資のグラミン(ベンガル語で「村落」の意味)銀行を設立。全国に普及し、現在の融資残高は同国GNP(国民総生産)の1%にのぼる。また同様のマイクロクレジットは世界40か国以上が導入。その功績で2006年、ノーベル平和賞受賞。

 大学で経済学を教えていましたが、1974年、大飢饉(ききん)で村に、餓死者が出ていること、多くの人が少額の借金に泣いている現実を知りました。ある村では42人で総額たった27ドルの借金に苦しんでいました。

 銀行と共同で貧しい村人向けの少額低利の金融制度を作ろうと考えましたが、銀行は大反対、「信用がない、担保がない」というのです。特に女性に対しては「冗談じゃない」という態度でした。

 そこで私が保証人になって実験的に少額融資をしてみると、ちゃんと返済される。しかも男性に貸しても生活は変化しないのに、女性に貸すとお金が生きる。子どもの栄養状態が改善され、登校率が上がるのです。女性は「お金を必要とする優先順位」を考え、それが長期的によい結果を生むのです。

 83年、こうした実績を踏まえて「女性を主な対象とする」グラミン銀行開設にこぎつけました。借り手にも自分たちの生活の課題を洗い出してきちんと対応することを励行、86年には「生活を圧迫する結納をやめよう」「子どもを学校に行かせよう」など16の実施項目を掲げました。

 村の女性のほとんどが字を読めません。だから彼女たちは項目を歌にして歌う。それを聞いた女性が涙ぐむんです。生活に根ざした美しい歌だからです。

 数年後、村で医学生だという青年が声をかけてきました。母親が銀行の融資を受けてくれたおかげだ、と言います。感激して調べてみたら、母親が借りたお金で医学部や工学部に進学できた子どもがあちこちにいる。すぐに学生ローンを整備し、今、1万7000人が利用しています。親は字が読めなくても、子は知的な職業に就けるのです。

 ITも導入しました。グラミン電話会社を設立し、村の女性に携帯のレンタル業をさせたのです。当初、政府は「字も読めぬ女性にできるわけがない」と冷笑しましたが、「数字のボタンは10個だけだ」と押し切りました。今、彼女たちはあらゆる携帯機能を使いこなし、海外出稼ぎ中の村人からの連絡やビジネスコールを取り次いでいます。国番号など全部暗記していますよ。

 現在、世界で3分の2の人が金融を利用できない立場に置かれています。しかし、少額金融で生活を改善できる人は多い。特に女性です。

 もしも「利潤を上げる」という金融やビジネスの目的を「人々の生活を改善する」と変換させたら、世界は劇的に変わるでしょう。「きれいで安全な水を供給する」「母子保健を進める」といった事業を、利潤を目的とせずに企業化できないか。そういう社会的企業の市場をぜひ起こしたい。グラミン銀行の経験から、女性たちはその強力な推進力になる、と感じています。


パネル討論

 ――グルメ三昧(ざんまい)やブランド品など、日本の女性の消費意欲は盛んです。一方で最近は「格差」という言葉がひんぱんに使われます。果たして日本女性は本当にリッチなのでしょうか。

坂東 各国の豊かさを示す指標、HDIで見ると、日本は現在世界7位です。つまり、教育水準が高く、寿命は長く、経済的にも豊かです。ところが、女性は年齢によって違いが出ます。20代のころ、正社員として働く時期は男性と大差のない給与ですが、結婚・出産で退職し、40代で再就職する時はパートなどの非正規就労で低賃金になる。

 その結果、民間企業で働く女性は、年収300万円以下という人が3分の2にのぼります。100万円以下の数も相当です。しかも、既婚女性を103万円以内に誘導する税の控除もある。

 加えて今日では「国際競争で勝ち抜くために人件費を節約する」ことが企業の戦略とされ、労働力の外注化や非正規化が進められています。いわば女性はショックの吸収剤として使われている傾向があり、とてもみんながリッチとは言えません。

写真:坂東真理子さん
ばんどう・まりこ
 1946年生まれ。総理府入省後、主に女性問題に取り組む。埼玉県副知事、ブリスベーン総領事、内閣府の初代男女共同参画局長を歴任。本年より現職。著書に「女性の品格」など。

女性個人は低所得

 ――世帯単位では豊かでも、個人レベルで見ると女性は「安い労働力」のようです。

樋口 先進国はもちろん、アジアの中でも、日本は男女の賃金差が大きい社会です。これまでそのことがあまり騒がれなかったのは、経済成長でそこそこ家計が豊かになって、一家の大黒柱の男性が稼いでいれば問題ない、と思われていたからでしょう。

 ところが1990年代以降、非正規社員が急激に増え、男性にも及んできました。特に若い層で目立っている。そうなると一家の家計が脅かされ、あるいは若者が自立・結婚出来ない事態となる。低賃金の非正規労働が男性にも及んで初めて、社会的に問題が浮き彫りになってきたわけです。

 これまでは「働く夫」と「専業主婦の妻」のセットを標準として税制や社会保障が設計されてきましたが、その標準に当てはまらないシングルや離婚者も多くなり、従来の制度では対応しきれなくなっています。

写真:樋口美雄さん
ひぐち・よしお
 1952年生まれ。米国コロンビア大学、スタンフォード大学客員研究員などを経て現職。著書に「日本の所得格差と社会階層」「女性たちの平成不況」など。

 ――いったん「標準世帯」からはずれると、どんな事態がありうるのでしょう。

桜井 横浜市は全国平均に比べて世帯収入も在住女性の学歴も高く、意外かもしれませんが専業主婦率も高い。そんな街の男女共同参画センターの再就職講座で見えることがあります。

 以前の受講生には「子育てを卒業したので生きがい探し」という、まさに高収入世帯専業主婦が多かったのですが、ここ数年は「夫がリストラ」「離婚を控えて」「既に別居」といったケースが多い。同時に講座の受講料免除適用の生活保護受給者や母子生活支援センター入居者なども増えています。寄せられる相談は4割近くがDV関連です。

 何らかの理由で女性が1人で生きていこうとすると、あっという間に経済困窮に直面する、ということです。会社役員の妻が離婚相談に通おうにもそのバス代がない、あるいは左ハンドルの外車に乗っていた女性が夫の暴力で母子家庭になった途端、就職面接に行くストッキングが買えない、という例が実際にある。世帯所得が高くパソコン普及率日本一、という地域で経済困窮女性を対象にパソコン教室を開いたら、「これがパソコンなんですか」という女性がいました。

 全国の母子家庭は全世帯の2・5%、123万世帯にものぼりますが、その平均年収は224万円と、一般家庭の約3分の1。世帯所得、つまり夫の所得と女性の経済状態とは一致していないのです。

写真:桜井陽子さん
さくらい・ようこ
 1947年生まれ。社団法人勤務を出産で退職後、フリー編集者に。主婦の再就職問題に取り組み、80年「女・再就職」を編集。87年より横浜市女性協会に勤務。全国女性会館協議会理事。

 ――横浜で協会と共に困窮女性を支援している企業があります。

伊藤 マイクロソフトでは、横浜をはじめ、各地の非営利団体と共同でDV被害者や母子家庭のお母さん向けのITスキル研修を支援しています。

 具体的には団体に助成金やソフトウエア、人材を提供します。2002年、開始当初はシェルターなど非公開の場所で実施。技術を身につけると同時にDV被害者に自信を回復してもらえたようです。その後、母子家庭の母親に、より実践向けの就労プログラムを展開しつつあり、昨年からは全国の女性会館やシェルターと協働して全国展開にとりかかりました。

写真:伊藤ゆみ子さん
いとう・ゆみこ
 1959年生まれ。衆議院法制局勤務後、弁護士登録。米国ロースクール卒業後、NY州弁護士登録。日本アイ・ビー・エム勤務などを経て本年より現職。社会貢献を含む法務・政策企画部門を統括。

桜井 横浜ではこれまでの1000人以上の受講者のうち、有職者は54%。「何も出来ないと思っていたが、面接までこぎつけた」という声がある一方、「経済力がある人はどんどんスキルを身につけていくのに、生活費を稼ぐことに追われる者はますます取り残される」という声もありましたね。

農業を「職業」に

 ――都市と地方の格差が言われる今、農村女性に動きはありますか。

清水 農村女性は長い間、黙って働いて当たり前、給料はなし、相続権もなし、という状態でした。私自身、非農家から兼業農家に嫁いで、夫と共に専業農家に転身。1993年、中野市で初めての女性農業委員になり、「職業としての農業を」と主張した際は「生意気言うな」「農業は家業だ」などの批判も受けました。

 10年ほど前から農家の妻たちの副収入を得ようと、規格外野菜を直売したり加工したり。まずは地元の学校給食に提供し、次はグリーンツーリズムで都市と農村の交流を図る、などのステップを踏んでいます。

写真:清水照子さん
しみず・てるこ
 1945年生まれ。67年に兼業農家の男性と結婚。76年に脱サラした夫と借地も含めて米作り専業農家に。女性を農業経営者として位置づけるための女性農業経営者会議会長に95年就任。

 ――お母さんたちのお財布は確保されましたか。

清水 最近は家族経営協定参加者も増えています。中野の農家110軒ほどが給料や休日を家族で決めて文書に残すようになりました。

 ――都市で、農村で、女性個人が経済力を付ける努力が展開されています。

樋口 ユヌスさんの言うように、適正な支援があれば女性は経済自立できます。日本では経済発展と共に自営業の比率が下がってきましたが、先進国では多くの国でむしろ最近は自営業が増えている。産業がサービス化、情報化する中では今までとは違った自営業的な働き方が有利な面も多い。適正な起業支援があれば、女性が自立しやすい時代だと言えます。

坂東 日本は女性の就労に関する法整備は進んだが、なかなか社会が本気にならない。サービス残業を求められる正社員、それができずに非正規にならざるを得ない女性などはその例。あとは法に力を持たせ、企業や市民が本気になること。それが女性を貧困から守り、少子高齢社会を支えるはずです。


討論を聞いてアポロニア・トレンティーノさん「豊かな日本も共通する問題」

写真:アポロニア・トレンティーノさん
Apolonia TOLENTINO
 道路造成などのため立ち退きを迫られる都市在住の貧困者団体代表。政府と交渉し、代替地確保や就業プログラム実施などに尽力。

 豊かな日本にも女性にはフィリピンと共通する問題があると知った。各種の法が整備されても家庭や職場ではしばしば文化や慣習など別の力学が働く。日本では対策プログラムも登場しつつあるが、出稼ぎが多いフィリピン女性にとってはこれからの課題だと思う。


(2007年7月23日 読売新聞)