第9回読売あをによし賞

 文化財の保存・修復に功績があった個人や団体を顕彰する「読売あをによし賞」の第9回受賞者が決まった。85件の応募から本賞に選ばれた山本清一(きよかず)さん(82)(奈良県生駒市)は、「本瓦葺(ほんがわらぶき)」の国選定保存技術保持者で、数多くの古代瓦の復元を手がけ、日本の文化財建造物の保存・修復に欠かせない技術が評価された。奨励賞は、有田焼など陶磁器用和絵の具を製造する辻昇楽(しょうがく)(本名・人之(ひとゆき))さん(54)(佐賀県有田町)、特別賞は、雅楽の振興と普及に取り組む公益社団法人南都楽所(がくそ)(奈良市)に、それぞれ贈られる。

瓦の修復 研究一心

本賞

本瓦葺・古代瓦の復元 山本清一さん(82)

 平瓦と丸瓦を交互に葺(ふ)く伝統の「本瓦葺」で文化財建造物の屋根瓦を修復し、古代瓦の復元に取り組んできた。1994年、本瓦葺で初の国選定保存技術保持者に認定された。手がけた屋根瓦は1000件を超える第一人者だが、受賞にも「自分なりに勉強してきただけ。長生きしたからやな」と謙虚に語る。

 尋常高等小学校を出て、14歳で家業の瓦葺き職人に。20歳の頃、奈良県斑鳩町の役場新築で本格的な瓦葺きを任された。手本を求めて近くの法隆寺に足を運ぶうち、「こんな瓦を葺きたいと思うようになった」。文化財の瓦葺きの棟梁(とうりょう)、井上新太郎氏に弟子入りし、独立後、70年から瓦の製造も始めた。

 「どう作られ、葺かれたのか分からなければ、修復も復元もできない」が持論。古代瓦を研究し、発見も数多い。その一つが、不明だった古代の鬼瓦の葺き方。法隆寺の玉虫厨子(ずし)の屋根を参考に独自の方法を考案したところ、後に発掘成果から古代と同じだったと証明され、平城宮大極殿(奈良市)の復元に採用された。「実際に瓦を手にする職人だからこそ、分かることがある」と胸を張る。

 文化財建造物の修理では、万単位の瓦を作って葺く。2014年に修理が終わった正倉院(同)では、全約3万5000枚のうち約2万6000枚を新調した。

 最も苦労したのは「天平の甍(いらか)」で名高い唐招提寺金堂(同)の屋根の飾りである鴟尾(しび)の復元という。高さ1・2メートルもあり、均一に乾燥させるため、倉庫内に張ったテントで作業し、ぬらした雑巾を表面にかけるなど細心の注意を払った。「この経験が『平成の大修理』で新しくした姫路城(兵庫県姫路市)の鯱(しゃち)瓦に生きた」と振り返る。

 現在、日本伝統瓦技術保存会の会長として後継者の育成に力を注ぐ。「物作りは人作り。若い人に技術を吸収し尽くしてもらい、セミの抜け殻のようになるまで死ねませんわ」と笑う。

「辻唐石」に顔料混ぜ60色 

奨励賞

  • 陶磁器用和絵の具製造 辻昇楽さん(54) 

 「器ではなく材料を評価していただき、心からありがたいと思う」。陶磁器の絵付けに用いる伝統的な和絵の具を製造し、地元の有田焼をはじめ、波佐見焼(長崎県)など8産地に提供している。家伝の「辻唐石(とうせき)」というガラス質の原料に様々な顔料を混ぜ、「透明度が高く、鮮やかで深みのある色」と評価は高い。

 九州産業大を卒業後、京都市の職業訓練校と清水焼の窯元で陶芸を学び、1987年に家業を継いだ。

 最初に取り組んだのが、「有田の三右衛門」の一つである源右衛門窯を代表する「源萌黄(げんもよぎ)」という緑色。「微妙に本来の色と違ってきた」ため、1年がかりで約120色を試作し、注文に応えた。

 「焼かないと色が分からず、土が違えば発色も違うのが難しい」。伝統に則した約60色を作る。赤は、ベンガラを水に入れ、水を取り換えながら10年置く。そうすると乳棒ですり潰すより不純物が混じらず、粒子が細かくなり、美しく発色するという。

 先祖は江戸時代の17世紀後半、佐賀藩が定めた「赤絵屋」(絵付け職人)で、自身は「少なくとも七代目」。店舗兼工場は重要伝統的建造物群保存地区にある。

 来年は日本で初めて磁器を焼成した有田焼の創業400年。「日本各地にある磁器の伝播(でんぱ)地を訪ね、産地に合ったよりよい調合をしていきたい」と意気込む。

奈良の雅楽伝承 

特別賞

公益社団法人南都楽所 


 平安時代に南都(奈良)の雅楽を担った旧南都楽所の伝統を継承する、日本を代表する雅楽団の一つ。春日大社を中心に設けられた「春日古楽保存会」から1968年、雅楽部門が独立した。地元の寺社などでの奉納や公演は年間約70回を数え、中国、イタリア、ベトナムなどでも公演歴がある。

 小学生から80歳代までの男女約100人が、技能や経験に応じて「楽師」「楽員」「研修生」など七つの名称で呼ばれる。週1回のパート練習や月1回の合同練習は、年齢にかかわらず一緒に取り組む。外部の雅楽師を招いた研修会を定期的に開くほか、古典芸能に関する学術的な調査・研究、装束の復元も行っている。

 若い世代が多く、平日の行事は仕事や学業を順番にやりくりして参加する苦労もあるが、活発な活動を続ける。奈良大名誉教授(芸能史)の笠置侃一(かさぎかんいち)楽頭(87)は「受賞は大変光栄。今後も伝統を一人ひとりがきちんととらえ、引き継いでいきたい」と喜んでいる。

  • (2015年5月13日 読売新聞)