刑事政策の懸賞論文 受賞作が決まりました(2017年1月19日)

「青少年による薬物使用を防止するための対策」をテーマに、日本刑事政策研究会が募集した懸賞論文(読売新聞社共催)の入選作品が決まり、東京都内で18日、表彰式が行われました。優秀賞に青山学院大法学部2年の吉松美帆子さん(20)の論文「里親型ホームステイプログラムによる青少年の薬物再使用防止」が選ばれ、賞金20万円などが贈られました。佳作には3論文が選ばれました。

論文要旨と講評

 優秀賞の論文要旨と審査委員による講評を紹介します。

吉松さんの要旨


  •  今日、青少年による規制薬物の使用が社会問題になっている。事前抑止には限界があり、再犯防止に焦点を当てる必要がある。検挙者に占める再犯者の割合を示す「再犯者率」は、年齢が上がるほど高くなるというデータもあり、早期に再使用防止策を講じることが必要だ。それには青少年の社会復帰を支える環境整備が有効だと考える。

  •  環境作りに必要不可欠とされるのが、家族によるサポート体制だ。現に家族全体を治療対象とする「家族療法」などが行われているが、支え手は本当に家族で良いのか。青少年の早期の社会復帰を目指すのであれば、社会自身が受け皿となる体制が必要だろう。

  •  その方策として、青少年が保護観察中に実の家族とは違う家庭で社会復帰を目指す「里親型ホームステイプログラム」が考えられる。〈1〉地元以外の家庭を受け入れ先に選定する〈2〉保護観察官と保護司の指導・監督の下で行う〈3〉受け入れ先には報酬などを与える〈4〉青少年、家族、受け入れ先が会い、相談できる機会を設ける――といった内容だ。

  •  プログラムは、長期かつ継続的に家族以外の市民と共同生活を送ることで、青少年に「薬物のない生活」と「居場所」を作ることを目標としている。青少年が、薬物使用の契機となった環境から抜け出した後、社会に居場所がなければ再使用の恐れがある。プログラムを実社会で行うからこそ、青少年が孤立することなく、本当の意味での社会復帰が実現できると考える。

  •  吉松さんの話「予想外の受賞で驚いた。海外の制度や論文がなかなか見つからずに苦労した分、斬新さにつながったのかもしれない。今後も大学のゼミなどで刑事政策を研究したい」

講評 太田達也・慶大法学部教授


  •  懸賞論文の題目である青少年の薬物乱用防止については、未然防止(1次予防)、早期発見・早期治療(2次予防)、再使用防止(3次予防)など異なる角度から論じることができる。応募論文には、学校におけるICT(情報通信技術)やストレスマネジメントを活用した薬物乱用防止教育を提案する佳作の遠藤さんと八木さんの論文を含め、学校における防止教育や啓発活動といった1次予防を扱ったものが多く見られた。これに対し、優秀賞の吉松さんと佳作の小川さんの論文は、規制薬物を使用した青少年が社会復帰する上での環境整備を重要視する3次予防に焦点を当てた。特に吉松さんは、里親型ホームステイという疑似的な家庭体験を通じた再使用防止というユニークな提案が審査委員から評価され、受賞につながった。今後の懸賞論文でも、こうした具体的かつ豊かな着想が望まれる。

ほかの受賞作品


  • 【佳作】(敬称略)
  • ▽「学校における薬物乱用防止教育の充実化」
  • 八木菜文(21)・三重大人文学部3年

  • ▽「青少年による薬物使用防止対策についての一考察―薬物を必要としない『地域社会』と『信頼できる大人(場)』の創造を通して―」
  • 小川真美(47)・東北福祉大大学院総合福祉学研究科修士課程1年

  • ▽「ICT活用と教員研修義務化による小学校への全国統一薬物乱用防止教育制度の導入」
  • 遠藤モナミ(20)・青山学院大法学部2年

    ◆審査委員(敬称略)
     龍岡資晃(元学習院大法科大学院教授)、太田茂(早稲田大大学院法務研究科教授)、太田達也(慶応大法学部教授)、溝口烈(読売新聞東京本社専務取締役編集局長)、佐久間達哉(法務総合研究所長)

(2017年1月19日 読売新聞)