刑事政策の懸賞論文 受賞作が決まりました(2016年1月20日)

「ストーカー事犯対策の在り方」をテーマに、日本刑事政策研究会が募集した懸賞論文(読売新聞社共催)の入選作品が決まり、東京都千代田区の法曹会館で2016年1月19日、表彰式が行われました。優秀賞には鹿児島大大学院人文社会科学研究科1年の高崎真奈さん(22)の「ストーカー加害者の家族等への介入方策~その必要性と可能性」と、三重大人文学部3年の加藤瑞季さん(21)の「ストーカー被害者が相談しやすい環境づくり」の2論文が選ばれ、2人に賞金20万円などが贈られました。佳作には3論文が選ばれました。

論文要旨と講評

 優秀賞の論文要旨と審査委員による講評を紹介します。

高崎さんの要旨


  •  ストーカーによる殺傷などの重大な加害行為を未然に防止するには、加害者の身近で動向を把握できる家族など、近親者から速やかに情報を得ることが重要となる。一方、近親者は、加害者の言動に同調することもあり、警察などの関係機関は、近親者に早期に働きかけて正しい理解を促し、加害者の凶行の防止と改善のために連携すべきだ。

  •  しかし、現行制度下では、警察などが加害者の近親者に働きかける方法は明示されていない。私は、可能な施策として、〈1〉近親者への通知〈2〉近親者がストーカー行為に加担、ほう助した場合の抑制措置の適用〈3〉近親者への教育、指導、助言――などを提案する。加害者に対する教育プログラムの開発や支援機関の設置などの対策も必要だ。

  •  高崎さんの話「文献を読むだけでなく、実際に警察署や保護観察所に赴き、現場の声を聞きながら考えをまとめた。今後も有効な対策を考えていきたい」

加藤さんの要旨


  •  ストーカーの被害件数は増加しているが、警察に親告しない被害者も多い。被害者の救済には、ためらわずに相談できる機関が必要だ。警察は、被害者対応や危険度判定、早期検挙体制などの構築に取り組むが、警察だけで解決するには限界がある。そこで民間機関の存在が必要となるが、経済的負担から被害者が積極活用できていない。

  •  英国や米国では、被害者のケアや、警察、医療従事者を招いたセミナーの開催に公的機関を活用している。日本でも、無料や低料金で利用できる公的機関が必要だ。私は、犯罪被害者支援センターを軸にしたストーカー被害の公的な相談窓口の設置を提案する。被害の拡大を食い止め、被害に対する関心と理解も深まると考える。

 加藤さんの話「最後まで軸がぶれずに書くことができた。元々、被害者支援に関心があった。具体的な主張に絞ったのが、良かったのだと思う」

講評 太田達也・慶大法学部教授


  •  加藤さんの論文は、警察以外の「公的な」ストーカー被害相談窓口を設けることを提案する。警察はストーカー被害者の保護に大きく貢献しているが、加藤さんが指摘する通り、警察に相談しにくい被害者もおり、警察以外にも官民で重層的なセーフティーネットを設けるべきだ。また、ストーカー行為の防止には加害者の家族への働きかけや支援も重要で、高崎さんはその点を鋭く指摘し、具体的な制度の提案まで行った。

 今回の懸賞論文では、多くが一般的・表面的な主張や制度の提案にとどまる中、優秀賞の論文はそれらとは異なる角度から問題を具体的に考察しており、審査委員一同から高い評価を得た。両者の提案は、互いに補完し合う関係にあり、いずれも実現しなければならない。今後の懸賞論文では、既存の制度や主張をなぞるだけではなく、こうした様々な視点からの着想が欲しい。

ほかの受賞作品


  • 【佳作】(敬称略)
  • ▽「ストーカー事犯対策において求められる警察と婦人相談所の連携」
  • 松村拓実(20)・首都大学東京都市教養学部2年

  • ▽「ストーカー被害者のサイバースペースにおける個人情報保護」
  • 相崎みき(20)・慶応大法学部3年

  • ▽「ストーカー加害者の更生に向けて」
  • 伊藤優希(21)・三重大人文学部3年

    ◆審査委員(敬称略)
     龍岡資晃(元学習院大法科大学院教授)、太田茂(早稲田大大学院法務研究科教授)、太田達也(慶応大法学部教授)、溝口烈(読売新聞東京本社常務取締役編集局長)、赤根智子(法務総合研究所長)

(2016年1月20日 読売新聞)