「第66回読売教育賞」最優秀賞の実践報告書要旨

 第66回読売教育賞の実践報告書の要旨を紹介する。(敬称略)

身近な事象 テーマに

理科教育

秋田県由利本荘市立大内中学校教諭 佐藤由美 55
「科学部活動を通して、自分を見つめ、前進しようとする生徒を育てる」

 「マヨネーズを絞るとなぜとぐろを巻くのか」「ジュースを瓶から注ぐと音が出るのはどうして」など、科学部員に、身近な事象を研究テーマとして選ばせている。部員は100程度のテーマを出し合う。そこから絞り込み、仮説を立て、共同で検証実験を行う。研究成果をサイエンスショーとして全国で披露するボランティア活動も実施、科学の面白さを伝えている。生徒の「問いを発する」意識と自己有用感を高め、気概を持って目標に向かう積極性を育んでいる。

現代社会 独自ノート

社会科教育

宮崎県立宮崎農業高校教諭 川末修 55
「上機嫌な授業のために 『現代社会授業ノート』の活用と『最近の出来事』を軸として」

 オリジナルの「現代社会授業ノート」を作成し、生徒に使用させている。通常のメモ部分に加え、学ぶ意味を説くページや新聞を要約させる課題用ページを設けるなど、この1冊だけで現代社会の勉強を完結できる。また、授業ごとに担当生徒を代えながら、学習ポイントや意見などを提出させる「授業日誌」を取り入れたり、時事クイズを導入したりするなど、やる気のない生徒も学びに引き戻す工夫を重ねてきた。生徒も教師も楽しい「上機嫌な授業」を実践している。

生活習慣を自己評価

健康・体力づくり

岡山市立西大寺中学校 代表・梶原敏
「中学生の生活習慣の確立を目指した健康教育の実践」

 将来の生活習慣病予防につながる成長期の基本的習慣を生徒に身につけさせることを目指した。各生徒に健康測定や日常生活調査の結果を自己評価させるとともに、運動、睡眠、食行動などの生活習慣について知識を習得する指導を展開した。保護者に対しても食習慣や生活習慣改善のための啓発活動を行った。経年的な活動の結果、生徒の生活習慣改善や健康意識高揚が見られた。肥満傾向の生徒や、授業中に居眠りをする生徒が減少。学習時間が増加、学びをあきらめない生徒が増加するなどの効果があった。学校全体に活気が感じられるようになった。

英語で表現 楽しく

外国語・異文化理解

金沢大学人間社会学域学校教育学類付属中学校教諭 田中里美 40
「生徒の柔軟な発想を生み出すプロジェクトを軸にした授業」

 クラスで1冊の卒業文集を英語で作らせたり、教科書を参考に即興対話を独自に創作させ、生徒同士で発表させたりして、英語で表現することの楽しさを経験させている。表現させることで生徒の柔軟な発想を引き出すことができ、また英語での対話に抵抗感がなくなり、目標を持って学習するようになる。これまで四つの中学校での実践で、試験の英作文で無解答が減少、2年生の3月段階で英語検定3級、準2級の合格者が著しく増える、などの効果が見られた。

教育相談 定着に尽力

児童生徒指導

茨城県立水戸工業高校教諭 金沢容子 60
「大規模な専門高校で教育相談を校内に浸透させるまでの取り組み」

 教育相談(カウンセリング)を15年かけて勤務校に定着させた。着任当初、学校には「本校生徒は能力があるから自己責任で問題解決に当たればよい」という教育観があり、教育相談委員会があっても活動がなかった。個人的にカウンセリングを開始し、少しずつ理解者を増やし組織活動に結びつけた。現在は、全校生徒向けに年5回「カウンセリング通信」を発行したり、毎年5月、9月に「教育相談週間」を設ける。以前と比べ、生徒指導の件数が減少する成果があった。

「リケジョ」育成に知恵

カリキュラム・学校づくり

ノートルダム清心学園清心女子高校(岡山県倉敷市) 代表・秋山繁治
「『科学課題研究』を中心に据えた女子の理系進学支援教育プログラムの開発」

 女子の理系大学進学を支援するため、2006年、同校に「生命科学コース」を開設した。教育内容を知識、体験、研究の三つの構成とし、知識、体験で身につけたものを最終的に研究に集約する形でカリキュラムを作った。マレーシアでの環境学習など野外実習を多く盛り込んでいる。また、2009年より、発表者が女子だけの「集まれ!理系女子・女子生徒による科学研究発表交流会」を全国に呼びかけ実施するなど、科学分野で活躍する女性の育成に取り組む。

堺の地場産業体験

地域社会教育活動

大阪府立堺工科高校定時制の課程 代表・保田光徳
 「地場産業を軸とした地域連携」

 打ち刃物、線香といった伝統地場産業を学ぶ「堺学」講座でモノ作りを体験したり、講座を通じて自分たちが作った包丁や線香を東日本大震災の被災地に贈呈したりしている。自分の手で製品を作り上げることで、地域への誇りや、自分への自信を高めることができた。被災者から感謝されることで自己有用感が育まれ、ボランティア活動への意識も高まった。寄贈した包丁のメンテナンスをする「研ぎ直しプロジェクト」も実施した。地元商店などの協力を得ながら、小学生が仕事の体験をするプロジェクトでは、高校生が自ら指導にあたっている。

好きな記事で壁新聞

NIE

まわしよみ新聞実行委員会(大阪市) 代表・陸奥賢
「まわしよみ新聞 新聞の魅力・可能性を伝えるNIE」

 「まわしよみ新聞」は、何人かで新聞を持ち寄って、好きな記事を切り取り、互いに紹介しながら、その記事を1枚の大きな紙に貼って再編集してオリジナルの壁新聞を作る遊び。2012年に大阪市内のカフェで始めたところ、「新聞の魅力を再発見した」などと評判になった。新聞の多様性や特性に理解を深め、メディア・リテラシーを養うことができる取り組みとして、小学校から大学で実践されるようになっている。台湾の大学でも日本語教育の一環として正規採用されるなど、世界的な広がりを見せつつある。

蚕を飼育 生命学ぶ

幼児教育・保育

社会福祉法人峰悠会おおぞら保育園(群馬県桐生市)保育士 小林真理子 55
「日本の伝統文化 カイコの飼育体験を通して」

 地域の伝統産業である養蚕を年長児が体験追究した3年間の記録。子どもたちは1日2回の蚕へのエサやりや掃除の体験を通して、命の大切さを学んでいく。蚕の幼虫が脱皮しながら大きくなり、繭を作るまでの過程を観察。蚕の口の形や色が成長につれて変わること、エサが人工飼料と桑の葉では生育の具合が異なることなどに気づき、理想の生育条件を考えることにもつながった。子どもが生物を慈しみ「もっと知りたい」という探究心の芽生えから展開された実践だ。

絵の具 材料は「島」

美術教育

「地域の色・自分の色」実行委員会(大分市) 代表・照山龍治
「『地域の色・自分の色』をテーマとした美術館×学校×地域の取組」

 大分県の離島、姫島の小中学生を対象とした取り組み。子どもたちが野外で集めてきた自分の好きな色の鉱物や植物などを原料に絵の具を作り、それを使って「自分の好きなもの」をテーマに絵を描く。子どもたちは身近な自然への関心を高め、故郷の魅力を再発見した。また、自らの手で絵を完成させる達成感が子どもたちのやる気を引き出した。授業態度や理科につながる発想や疑問など様々な面で成長や変化が見られ、成績が格段に上がる効果も見られた。

(2017年11月3日 読売新聞)