「第67回読売教育賞」最優秀賞の実践報告書要旨

 第67回読売教育賞の実践報告書の要旨を紹介する。(敬称略)

和算と生活 関わり探る

算数・数学教育

茨城県立竜ヶ崎第一高校 学校設定科目「白幡探究Ⅰ【数学領域】」 代表・小林徹也
「生徒が主体的・対話的に和算を解釈・表現する指導実践」

 和算の解析や算額づくりに取り組み、人間の営みと数学の関わりを探究した。和算の解析では、和算書を5年間、毎年、1年生全員で分担して現代語に翻訳し、江戸時代の人々がどんな問題に関心を持ったり、どんな考え方で解を導いたりしていたのかを考察した。また、問題の背景にある「年貢」「商取引」「もの作り」といった当時の暮らしぶりと、数学の使われ方を調べた上で、その結果を現代語訳と英訳でポスターにまとめ、ネット上に「和算ライブラリー」として公開してきた。内外での和算研究の一助になることが期待できる。

「理科は身近」興味育む

理科教育

NPO法人日立理科クラブ 代表・滝沢照広
「未来を拓(ひら)く科学大好きっ子の育成を目指して」

 日立製作所グループや教育界のOBらが会員となり、2009年に発足。理科が身近なところで役立っている重要な教科であることを子供に認識してもらうため、六つの活動を行ってきた。茨城県日立市内の全25小学校に会員を派遣し、理科実験で先生の補助などにあたる「理科室のおじさん」、先生の要望に沿った独自教材による授業支援、将来、研究者やエンジニアを目指す小中学生を対象とした「理数アカデミー」など。年間延べ1700日8000時間を超える派遣実績を重ね、子供の理科や実験への興味を育み続けている。

模擬選挙で政治討論

社会科教育

千葉県立白井高校教諭 小島江津子
「公民科教育にできることグローバル教育から主権者教育へ」

 新科目「公共」が導入されることを念頭に、社会の一員として主体的に考え、行動できる生徒を育成する主権者教育の実践。講義形式ではなく、討論や調べ学習をすることで理解の定着を図った。例えば、模擬選挙の授業では、憲法改正、消費税増税、少子化対策など、現実の政治課題を用いて討論させたり、新聞記事を読んで新聞を作成したりと、生徒に自分自身の考えを発信させる機会を設けた。3年間の取り組みで、生徒は、発表力、質問力、調査力、資料活用能力を獲得、社会参画の意識も養うことができた。

被災後 心のケア強化

健康・体力づくり

熊本県山鹿市立大道小学校教頭 百田止水
「熊本地震からの『創造的な復興』のための心のケアの充実」

 熊本地震の発生に伴う児童のストレス緩和・心のケアに取り組んだ。年に3回、児童の心と体の状態を調査し、スクールカウンセラーと主幹教諭らが情報共有して指導や支援にあたる仕組みを作り、実践した。地震直後は泣いたり、いらいらしたりと、感情が不安定な児童も見受けられたが、多くの児童が不安や悩みを軽減、解消して、落ち着きが戻った。スクールカウンセラーを活用してのケア体制を確立したことで、早期に児童の不安や悩みを知ることができるようになり、組織的な対応が可能になった。

英語で人間的成長促す

外国語・異文化理解

京都府城陽市立北城陽中学校教諭 内貴真美子
「情動的痕跡を残す英語科教育 人格形成の契機を目指して」

 英語の授業を知識・技能の習得だけではなく、生徒の人間的成長の契機にもしようと取り組んだ。オー・ヘンリーの著作「The Gift of the Magi」(賢者の贈り物)を教材に、物語を自分の言葉で語るなど、8時間の読解活動を実施した。物語が伝えようとしているメッセージをいかに読み解くかを学習班ごとに話し合わせる一方、それを登場人物のセリフとして英語で表現させるなどした。表面的な理解ではなく、著者が文章の中に潜ませた思いを、生徒自らが探り出すことで、深い学びが実現した。

他教科の授業も参観

カリキュラム・学校づくり

福井県立武生高校 授業改善プロジェクトチーム 代表・辻崎千尋
「チームで挑む!高校における授業改善」

 大学入学共通テストや新学習指導要領に対応して「授業力」を向上させようと高校教師の有志が取り組んだ。授業でのアクティブ・ラーニングの導入、ICT(情報通信技術)機器の活用などを研究するため、2017年に「授業改善プロジェクトチーム」を発足させ、毎月1回、会議を開催して、互いに授業実践を報告したり、研修を実施したりしてきた。担当外の教科の公開授業も参観し、指導力を磨き合った。教師の意識変革がもたらされ、授業実践に対する自主性と意欲が向上。生徒の学習意欲を喚起する効果も見られた。

社会活動で自己肯定感

地域社会教育活動

茨城県立取手第一高校教諭 大滝修
 「アジアと地域の支え合いを生み、若者が変わる社会参画の教育実践」

 地域の社会人・団体の支援を受け、経済的に困難な若者や不登校や引きこもり経験を持つ若者らを対象に、カンボジアへのスタディーツアーなどを実施してきた。若者は現地で、恵まれない子どもらを支援するボランティア活動に従事する。こうした若者は自己肯定感に乏しかったり、強い対人不安感があったりするが、現地での交流を通じて、自己の価値や可能性を発見して、自己有用感を高めていく。実例を紹介しながら、どの若者も社会活動に参加できるよう公費による「若者の社会体験」保障を提言している。

新聞作りで地域一丸

NIE

熊本県八代市立郡築小学校 代表・中野聖規
 「『みんな』のNIE・『みんな』でNIE」

 2016~17年の2年間、郡築小学校を中心として学校、家庭、地域が一体となってNIEに取り組み、200人が参加する「NIEフェスティバル」を開催するなど、NIEの「みんな化」を実現した。「検索力」「要約力」「発信力」などNIEで育む七つの力を設定し、新聞に触れ、学び、発信する実践を展開。運動会の際に保護者らが寄せた意見を児童がまとめて「大人新聞」を編集したり、地域の人から郷土史について学んだことをコミュニティーだよりに投稿したりと、様々な取り組みでNIEの新たな価値を発見した。

発達障害児の特性整理

特別支援教育

東京都立川市立第七小学校 代表・菅原真弓
「通常の学級と特別支援教室の協働的な授業づくり 発達障害児の考える力を高めるための指導の工夫」

 学習上の困難を抱え特別支援教室を利用する発達障害児が、通常学級で学習している国語や算数について、学習上のつまずきと、その原因や背景となっている認知特性や行動特性などを整理した。担任と教材研究や協働的な授業作りを5年間行った結果、発達障害児が自信をもって授業に参加するようになり、クラスへの適応も改善されたケースが多い。通常学級担任との連携が深まり、発達障害児が理解しやすい授業への改善が進んだ。学校全体としても主体的に考え表現する児童が増えて、学力向上の兆しも見られた。

(2018年11月4日 読売新聞)