第71回全国小・中学校作文コンクール 文部科学大臣賞3点の要約

 文部科学大臣賞3点を要約して紹介します。(敬称略)

■中学校

「盲導犬、嫁ぐ」

兵庫県三田市立狭間中2年 齊藤萌衣さいとう・めい

 「ニコラの嫁ぐ日、決まったよ」。電話を切った父が教えてくれた。父の盲導犬ニコラが引退する。関西盲導犬協会からの連絡だった。ついに決まったか。

 2021年3月、兄の卒業式が、ニコラと父のペアで臨む最後の日の予定だった。しかし、緊急事態宣言の影響により、新しい盲導犬の訓練が進まず、ニコラの引退は先延ばしになっていたのだ。

 8年間という時間の流れは、人と犬は違う。幼稚園の私は中学生になり、お嬢さん犬はおばあちゃん犬になった。私たちは、長い時間を一緒に過ごしたんだなと思う。母は「引退」という言葉を使いたがらない。

 「ニコラはお嫁に行くんだって思えば、離れて暮らしていても家族だし、新しい家族と新しい生活を楽しんでほしいって、思えるんじゃない?」

 盲導犬の一生には、たくさんの家族やスタッフ、ボランティアさんが関わり、共に時間を過ごす。私たち盲導犬ユーザーの家族は、一番長く一緒に暮らす家族だ。

 ユーザーと盲導犬の話はよく取り上げられる。父のように家族のいる場合、ユーザー以外の人間とも暮らしている盲導犬もいる。ユーザーの家族は、家の中でも盲導犬と接する約束を守り、盲導犬として犬が混乱しないよう共同生活を送らなければならない。

 私は、ニコラに、ご飯もおやつもあげたことがない。父の役割だからだ。私にできることはおうちで楽しく遊ぶことだ。ニコラが「一緒に遊ぼう!」と誘ってくる。これは、家族の誰にも負けない。ニコラの一番の遊び相手は私だ。

 私が小さい頃は、ニコラがお姉さん役で、私は妹のポジションだった。私が大きくなるにつれ、ニコラと私は徐々に遊び友だちの関係になった。

 「萌衣のことは仲間だと思っているでしょ」と笑われるけど、この関係は、他の家族とは違う。私とニコラだけの遊び仲間、幼なじみならではのものだ。

 ニコラは朝が大好きだ。私が制服に着替えて、朝ごはんを食べる頃、ブラッシングが終わり、ピカピカのニコラがダイニングに走って来て、しっぽを振って家族を見て回る。可愛かわいいなと思う毎日だ。お出かけ服を着て、ハーネスを装着して父と出かけるニコラは、外向けの盲導犬の顔をしてて、カッコ良い。

 盲導犬としての引退は、新しい生活のスタートだ。新生活を楽しんでほしい。大好きだよ、ニコラ。私には大事な幼なじみだもの。いつまでも、大切な家族だよ。一緒に暮らせて楽しかった。我が家に来てくれて、本当にありがとう。(個人応募)

 ◆盲導犬への愛情と配慮【講評】 盲導犬の引退は、ユーザーだけではなく、一緒に暮らす家族との別れでもあるのですね。盲導犬がたどる一生がよくわかり、それぞれの時期をともに生きる人たちの愛情と配慮が伝わってきます。新しい生活に踏み出す“お嬢さん”へのはなむけであると同時に、盲導犬への理解をうながす、意義深い作品です。(梯久美子)

■小学校高学年

「二つのたん生日」

栃木県宇都宮市立豊郷中央小4年 紺野こんのあかり

 私には、たん生日が二つある。一つは生まれてきた日。もう一つは、母から腎臓をもらった日。生まれつき腎臓が小さい病気で、2才の頃、透析するためにおなかに管を入れる手術をした。透析を始めて6年たち、腎臓も疲れてきてだんだん悪くなってしまった。だから移植することになった。手術の2週間前から入院した。手術の前日、母も別の病棟に入院する。「お母さん、がんばって!」。心の中で母に言った。母が入院した部屋から私の部屋に来て、父と3人でぎゅっと手を握って、父と母がしっかり抱きしめてくれた。  

 手術当日。父も母も病院の先生も看護師さんもみんなついていてくれる。「よし、がんばろう」と思った。手術は、7時間くらいかかったらしい。父は病院をうろうろしていたという。私と母を思って、心配だったのだろう。私が生まれたときみたいだなと思った。  

 手術が終わって目が覚めると、手術室にいた。次に目が覚めたときPICUという病棟にいた。子どもの集中治療室だ。父から「おしっこがたくさん出ているよ」と言われたとき、びっくりした。移植した母の腎臓が、体の中で元気に働き始めていた。手術は成功したんだ。母の腎臓が私の腎臓になったんだ。体が楽になって心が温かかった。  

 母から手紙が届いた。「よくがんばったね。お母さんはずっと、あかりの無事をいのっていました。あかりは、腎臓や体のことをたくさん勉強したね。笑顔で乗り切ろうとするあかりを見て、すごく大人になったなって思うよ。こんなに成長したあかりは、自まんの娘です。あかりのお腹の中にいつでもお母さんがいる。がんじょうなお母さんの腎臓だから、あかりのことをきっと守れると思うよ」。  

 お母さんありがとう。この腎臓を大切にするよ。母がつらいことがあった時には、私が力になろうと思った。  

 退院の日が来た。病院の外に出ただけで幸せな気持ちになった。病院の先生から「学校に行っていいよ」と言われた。その言葉をずっと待っていた。うれしくてとび上がりたい気持ちだった。前日から眠れなかった。1年ぶりに登校する学校。新しいクラスはどうかな? クラスの友達は私のことを覚えているかな。ドキドキしていると、とつ然、母が私のお腹に手を当てた。  

 「ここにお母さんがいるから大丈夫。心配になったら、右側の腎臓をさわってごらん」。母のパワーをチャージしてもらった。すると、何だか安心してきた。学校に行くと、みんなが優しく迎えてくれた。  今年も二つのたん生日が来る。その日までに母に恩返しをしたい。できるといいな。(個人応募)  

◆心ゆさぶる記録のお手本【講評】 腎臓移植は大手術です。不安の大きさははかりしれません。ところが紺野さんは、自分の体の変化や心の動きから、ドナーのお母さんの思い、見守るお父さんの不安までを淡々とつづっていきます。なんという目配りのよさ! なんと冷静な筆致! 心をゆさぶる記録のお手本のような作文です。(石崎洋司)

■小学校低学年

「アリにおしえてもらったこと」

兵庫県姫路市立安室東小1年 山下鼓都やました・こと

 わたしは、生きものにきょうみがあります。あさには、しゅうごうばしょの公えんで虫さがしをします。ある日、小さなアリが自分のあたまくらいのエサをくわえてあるいていました。はんたいからきたアリと出あうと少しのあいだむかいあって立ちどまり、はんたいからきたアリはエサをもったアリがやってきたほうへあるいていきました。  

 「アリってなかまとなにかしゃべってるで。大きなエサもどこまではこぶんやろ」と、おかあさんにはなすと、「アリはかしこくておもしろいで」と、いっしょにネットでアリについてしらべてくれました。アリがすをつくるようすをかんさつできるキットをみつけ、かってもらいました。  とうめいなケースにちゃいろと白いろの土が2そうに分かれて入っていて、アリがほり出した土がよくわかるようになっていました。ケースの上にはエサおきばがついています。はたらきアリをあつめることにしました。おじいちゃんのいえの石がきでアリのぎょうれつを見つけました。花だんの土のあいたあなに入っていったのです。  

 「す、はっけん!」。あなのそばにさとうをいれたエサおきばをセットし、まちました。1ぴきが中に入り、さとうにたどりつくと、しばらくあじわったあと、すにもどります。10ぴきくらいが一せいに出てきて、エサおきばへつきすすみました。「さいしょのアリがエサのことをおしえてあげたんだな」と、かんがえました。30ぴきくらいをケースにあつめましたが、5、6ぴきのときには、すをつくらなかったのに、15ひき、20ぴきとふやしていくと、ガンガンほりはじめるアリがあらわれたのです。くっついてほるアリがつづき、さまよっていたアリがはなれたところでチマチマとほり出しました。  

 「自分からがんばるのが2、3びき、ついていくのが15ひき、『ちょっとはほらなきまずいなぁ』てのが7、8ひき、みんなががんばっててもがんばらないのがのこりやな」「人げんもにてるな」。わたしとおかあさんは大わらいしました。わたしはどのアリといっしょかなと思いました。  20日たったころ、じけんがおきました。しんでしまうアリをくわえてすの中へひきずりこむアリがいたのです。なんびきかのアリがあつまって、しんだアリにかみつきました。しんだなかまのからだもむだにしない。たくましいなとおもいました。あたらしいことにちょうせんするとき、ピンチのとき、おもいだすことにしました。自分にできることを一生けんめいやりつづける。アリは、わたしの小さなせんぱいになりました。(指導・鎌谷紗里教諭)  

◆虫に対する思いの深さ【講評】 山下さんの虫に対する思いの深さに驚かされます。アリを観察し、「アリってなかまとなにかしゃべってるで」とすごい発見をします。そして、アリの生態を調べるために「アリのすハウス」を作ります。その行動力にも驚かされます。これからもたくさんの虫と出会い、大きく成長していく姿が目に浮かびます。(新藤久典)

(2021年12月5日 読売新聞)