読売新聞 報道と紙面を考える 第16回懇談会(2016年4月8日)

主権者教育に貢献

読売新聞東京本社は4月8日、第16回「報道紙面を考える」懇談会を開いた。外部の有識者の意見を取材や紙面作りに生かすのが目的で、本社紙面審査委員会が顧問を委嘱している上田廣一、国松孝次、長尾立子の3氏と記者教育支援委員4氏が出席。今夏の参院選で導入される18歳選挙権を巡り、新聞はどのような役割を果たし、どう報じていくべきかについて、意見が交わされた。また、発生から5年たった東日本大震災の報道と今後の取材のあり方についても議論された。

顧問
長尾立子(ながお・りつこ)氏 全国社会福祉協議会名誉会長、元法相
国松孝次(くにまつ・たかじ)氏 元警察庁長官、元駐スイス大使
上田廣一(うえだ・こういち)氏 明治大法科大学院特任教授、弁護士、元東京高検検事長
記者教育支援委員
湊和夫氏(十文字学園女子大名誉教授)
森本光彦氏(前山梨英和大教授)
沖山幾夫氏(元読売新聞東京本社新聞監査委員長)
鬼頭誠氏(帝京大法学部教授)
記者教育支援委員
記者教育の充実を目的に、本紙OB記者6人に委嘱。記事や取材活動の講評を行う。

老川最高顧問・主筆代理 あいさつ

政治考える重要な機会

現代の日本社会は、少子高齢化を背景に様々な問題を抱えています。そうした中で、18歳選挙権の導入は、選挙権年齢が2歳若返るというだけではなく、国民全体が政治の在り方や役割を改めて考える、重要な機会になると考えています。

選挙の意義や仕組みを教える「主権者教育」が学校で始まりましたが、ほかにも、駅や大型ショッピングセンターに共通投票所が設置できるようになるなど、社会的にいろいろな工夫、変化が生じつつあります。

「18歳になったから政治の勉強をしよう」というのではなく、子供のうちから自分の頭で考え、意見を形成することが必要です。読売新聞では「読売KODOMO新聞」「読売中高生新聞」を発行し、新聞や活字になじんでもらう試みを行ってきました。これからの時代は、物事を考えるうえで、新聞や本を読むことが一段と大切になるはずです。

また、今年で発生から5年となった東日本大震災も忘れてはならないテーマです。明日にも家に帰れると思って避難した人たちの多くが、現在もなお仮設住宅や全国各地に避難したままで、復興が進んでいるとはいえない状態が続いています。

今回は、こうした一連の紙面についてご議論いただければと思います。

18歳選挙権

「18歳」の意義掘り下げて 長尾氏/学校と社会を結ぶ「場」に 国松氏/出前授業取り組み評価 上田氏

2015年6月に成立した改正公職選挙法により、選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられた。70年ぶりに有権者層が拡大される。

法改正までの経緯について、田中政治部長は「政治主導で実現したが、必ずしも世論の後押しがあったわけではない」と説明。今後は、新たに投票権を得た18、19歳の若者に対し、選挙の仕組みや政治についてわかりやすく解説するとともに、18歳選挙権の意義についても広く伝えていくと述べた。

古沢教育部長は、学校現場でも、現実の政治課題を扱う学習が推奨されるようになったと説明する一方、「これまでの授業では政治的テーマを扱うことを避ける傾向があり、現場の戸惑いは大きい」と報告。教材にも活用できる毎週土曜教育面の企画「18歳の1票」や出前授業などの取り組みを紹介した。

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上田氏は「『自分の1票が国の政治を支えている』という認識を、有権者に持ってもらうことが大切だ」と述べ、出前授業などの取り組みを評価した。

長尾氏は「18歳に限らず、国民の政治への無関心が我が国の大きな問題」と指摘。選挙権年齢の引き下げを機に議論が深まることで、「一般の主権者にとっても警鐘になればいい」と語った。さらに、政治的な議論にとどまらず、「18歳」という年齢が、法律上、あるいは一般社会でどう扱われているかについても掘り下げれば、「読者にとって非常に示唆に富んだ記事になる」と提案した。

国松氏は、若年層に対する主権者教育という面で、「新聞の役割は非常に大きい」と強調。「政党任せにすると、選挙向けのこびるような議論が出てくる。一方、学校にはノウハウがなく、慣れてもいない」として、新聞に対し、学校と、関係団体、家庭などを結びつける「場」を提供し、学校をサポートする役割を果たすよう期待したいと語った。

鬼頭委員は、大学の講義で企画「18歳の1票」を活用しているといい、「政策だけでなく、各政党の理念なども紙面で紹介してほしい」と要望した。

沖山委員は、「いきなり選挙権といわれても戸惑うのは当然」と若者に理解を示し、活字離れが進む若者に新聞を読んでもらう工夫として「若い人と意見を交換できる紙面があってもいいのではないか」と提言した。

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新年連載「世界の18歳」で海外の若者の姿を紹介した国際部の飯塚部長は、「日本の若者はもっと政治や社会の問題に意識を高めていいのではないかと思った」と振り返った。

湊委員は「若者が投票権を求めてきたほかの国と違い、何かしらけた感じで、18歳への投票権が与えられた。もう少し国民全体が関心を持つやり方はないか」と問題提起した。

一方、10代向けの週刊紙「読売中高生新聞」は、改正公選法の成立に合わせ、中高生2万人にアンケートを実施。どんな政治課題に関心を持っているのかを尋ね、上位になった課題などについて毎月1回、中高生新聞別刷り4ページで解説している。山腰社会部長は、「この別刷りを使って授業を行う学校も出てきている」と手応えを語った。

森本委員は、2万人アンケートについて「非常にいい企画」と評価。「若い世代に政策の光が届くかが課題だ。中高生新聞の役割は増していく」と述べた。

大震災5年

復興へ新たな課題探る

発生から5年となった東日本大震災の報道については、平尾地方部長が、震災当時の動きや復興の歩みが一目で分かるビジュアルな紙面づくりの経緯などを説明。「復興はまだ道半ばで、震災報道の重要性は増していく。息の長い報道を継続したい」と語った。

上田氏は被災地と被災地以外では温度差があり、記憶の風化の進み方が違ってきていると指摘。被災地以外の読者にも、復興の様子などが伝わる紙面を評価したうえで、「震災が忘れ去られないよう、また、国民が心を寄せ合って、震災復興を願うような紙面づくりが必要」と訴えた。

長尾氏は、仮設住宅で人間関係を築いた高齢者にとっては、新たな復興住宅へ移ることが不安だと推測する。「新聞が様々なデータを分析すれば、読者が支援のあり方を考える手がかりになる」と期待した。

国松氏は、今後の課題として、空室が埋まらない復興住宅などニーズに合わない復興施策の見直しや福島第一原発事故による避難の長期化を挙げ、「現場に網の目を張り、新たな課題を吸い上げる取材を今後とも続けてほしい」と求めた。

森本委員は、経済面での復興を課題の一つとし、「現地は復興需要に支えられているが、地道な産業基盤作りはどうなっているのか。経済・産業にも注目していただきたい」と述べた。

溝口編集局長あいさつ

判断材料 多様な面から

改正公選法が成立した時、「新聞の出番だ」と思いました。1978年の最高裁決定は、新聞の最大の使命は、国民が国政に参加するための判断材料を提供し、国民の知る権利に応えることだと指摘しています。我々の報道で、若い人たちに政治参加するための材料を提供したいと思います。

今日の議論で、小さい時からの主権者教育の必要性を再認識しました。今後も、政治の現実、現場を、公正中立に多様な面から伝えていきたいと思います。

東日本大震災5年の報道では「ビジュアル」を目玉にしました。デザイン部員も、被災地で取材した大量のメモを読んで、状況を把握した上で図を描きました。非常にインパクトのある手法を確立できたと考えています。

マスコミは熱しやすく冷めやすいと言われますが、震災報道はそれではいけません。震災はどういうものだったのか、復興はどう進むべきか、腰を据えて報道していきたいと思っています。

本社側の出席者

老川祥一・グループ本社取締役最高顧問・主筆代理、溝口烈・東京本社常務取締役編集局長、田中隆之・編集局次長兼政治部長、坂本裕寿・経済部長、飯塚恵子・国際部長、山腰高士・社会部長、平尾武史・地方部長、古沢由紀子・教育部長、大沢陽一郎・論説委員、星春海・グループ本社広報部長、中村明・東京本社紙面審査委員長、石垣朝克・大阪本社役員室総務兼記事審査部長、野間潔・西部本社編集局次長

(2016年4月22日 読売新聞)