第22回(2015年度)読売国際協力賞「難民・国内避難民支援」 特定非営利活動法人ジェン

難民と現場で寄り添う

 第22回読売国際協力賞は、戦乱や天災に見舞われた世界各地の難民や国内避難民に対し、地道な支援活動を行ってきた特定非営利活動法人ジェン(JEN)に決定した。

特定非営利活動法人ジェン(JEN)

JEN=Japan Emergency NGO。ジェンは、国内のNGO(非政府組織)グループが旧ユーゴスラビア支援のため1994年に作った組織を母体に発足した。中東やアジアなど世界24か国・地域で、住民の自立を目標とした緊急支援などの活動を展開してきた。

「自立」の力 地道に支援

 第22回読売国際協力賞を受賞したジェンは、世界で紛争や災害が起こるたびに、いち早く現地に駆けつけ、大切な家族や家を失った人たちに支援の手を差し伸べてきた。困窮生活を送る避難民や難民がもう一度、自立して生きる希望を持ってほしい――その切なる願いが20年以上にわたる地道な活動を支えている。

シリア内戦で発生した難民数

 シリア国境に近いヨルダン北部の砂漠地帯にあるザアタリ難民キャンプ。6平方キロ・メートルに約8万人のシリア難民が暮らす。ヨルダン政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が共同管理するこのキャンプで、ジェンは2012年12月から、各国からの約50の団体と共に活動し、キャンプ内12の区域のうち3区域で上下水・衛生環境の整備を担当している。

■「水待ち」から解放

  乾いた大地の上に居並ぶ仮設住宅。9畳ほどの広さにマットを敷いただけ。「ジェンのお陰で水の配給が管理され、きちんと各家庭に行き渡るようになった」。ジェンの担当区域に住むムハンマド・アウェイスさん(36)が笑った。

 キャンプでは、敷地内に掘った井戸からくみ上げた水を、難民たちが給水車で各区域の給水所に運ぶ。だが当初、給水係が親戚や友人の住む地域の給水所を優先して配給順路を守らず、他の給水所では蛇口を回しても水が出ないという事態が相次いでいた。キャンプでの支援活動を担うジェン・アンマン事務所の二村輔さん(34)らはこの1年、難民から募ったボランティアと協力し、生命に直結する水が、決められた時間に適切に供給される仕組みを考えた。

 ボランティアが毎日、各給水所を回る給水車の車両番号や配給時間、水量などを用紙に記録。ジェンは週2回、用紙を回収し、給水車の稼働状況や配給の実態を確認、問題があれば、そのデータをもとに給水車にただすというシステムだ。二村さんは「難民が『水待ち状態』から解放された。この1年で一番の成果」と胸を張る。

ヨルダン・ザアタリ難民キャンプ
シリア難民の衛生啓発に励むジェンのスタッフ(ヨルダン・ザアタリ難民キャンプ。2014年)=ジェン提供

■難民が雑誌作り

 10月20日昼。キャンプ内のテントに、難民向けの月刊誌「タリーク(アラビア語で『道』の意味)」の編集スタッフが集まった。約10人の記者・カメラマンは、いずれも難民の若者たちだ。ジェンのヨルダン人スタッフで、地元ジャーナリストのハダ・サルハンさん(56)の指導のもと、雑誌作りに励む。10月号発行を目前に控え、編集長でもあるサルハンさんが記事や写真をチェックしていた。「難民の本音を最も引き出せるのは難民」。そう考えるサルハンさんは若者らに、質問の視点から記事の書き方、写真の撮り方、事実を正確に報じるという記者倫理まで丁寧に教えている。

 難民に情報交換の場を提供すると共に、支援団体として難民の思いやニーズを多角的にくみ上げたいとの狙いで、ヨルダンを含むジェンの海外事業を総括するフランス人のシリル・カッパイ・グローバル事業部長(46)が考案、昨年5月から刊行している。

サルハン編集長(右)
日本人スタッフが見守る中、月刊誌「タリーク」のゲラを手に記者たちと話し合うジェン現地スタッフのサルハン編集長(右)(10月20日、溝田拓士撮影)

 内容は難民生活にまつわる身近な話題から料理レシピ、保育のノウハウ、イベント情報など。難民が内戦前の自らの生活を振り返る企画「私の物語」も共感を得ている。発行部数は5000部。難民にとって、キャンプ内の情報を最も効率よく知ることのできる唯一の活字媒体で、商店や病院などで配布されると、人々は次々と手に取り、興味津々で読みふけるという。

 ダマスカス大でIT工学を勉強していたという記者の一人、カイス・ガッサンさん(20)は内戦で兄(23)を亡くし、現在は父母ら家族6人で暮らす。将来を描けない生活だが、「多くの難民が発行を楽しみにしている。今は、それを実感することが生きる意欲につながっている」と話す。

 難民が記事を書き、難民に読まれることで、明日への希望を取り戻す。「難民は(戦火から)逃れるために常にどこかの道を歩いている。この雑誌が、帰還につながる道への歩みを後押しできればいい」。カッパイさんは雑誌の意義をそう語った。(ザアタリ難民キャンプで、溝田拓士)

対「イスラム国」いち早く動く

 ジェンは、イラク北部で、イスラム過激派組織「イスラム国」に家を追われた人たちへの支援をいち早く開始した。2014年10月、クルド自治区ドホークに支部を開設し、日本人スタッフ2人と現地スタッフ6人が、避難民の帰還支援を中心に事業を拡大している。

 ドホークから南西約100キロ、緑豊かな平原が広がるニナワ県センジャール地方。昨年8月、「イスラム国」が、宗教的少数派のヤジーディ教徒が暮らすこの一帯を襲撃。住民は迫害を逃れてさまよい、地元当局によると少なくとも2000人が死亡し、約20万人が家を追われた。昨年末に「イスラム国」が一部地域から撤退すると、ドホークなどに避難していた住民の帰還が本格化した。だが、戦闘で自宅や生活基盤が破壊されたことが足かせになっていた。

下山由華さん(右)と太田千晶さん
ドホーク市内の事務所で現地スタッフと避難民の支援策について話し合う下山由華さん(右)と太田千晶さん(右から2人目)=ジェン・ドホーク支部提供

「地元の市長が水道の修復が緊急課題だと言っている」。3月、現地スタッフが聞き込んだ情報に、太田千晶さん(30)が即座に動いた。調べてみると、同地方のサヌニ市では7基ある井戸のうち三つが稼働していなかった。1500人ほどの帰還者たちの多くは、約20キロ離れた井戸まで車で水をくみに行かなければならない状態だった。

 周辺の治安は不安定なまま。太田さんや同僚の下山由華さん(32)が直接足を運ぶことは見送った。「この目で見ることが出来ないもどかしさ」(下山さん)を感じながらも、現地スタッフや住民からの情報を集めた上で、ニナワ県の地理に明るいイラク人スタッフと技師を派遣することにし、8月、二つの井戸のポンプとモーターを交換することに成功した。同地方で井戸修復に成功した民間活動団体は日本のジェンが初めてだった。

「いつでも安全に水が手に入るようになった」。現地スタッフを通じ、住民から感謝の言葉が届いた。「次もお願いします」。現地スタッフがサヌニ市庁舎を訪ねた際には、市長からそんな言葉をもらった。

「『ありがとう』と言われるよりも、『問題ない』と言われることがうれしい」と太田さん。自分たちが行ったことが、本当に人々の役に立っていると実感できるからだ。

 内陸部の平原に位置するセンジャール地方の冬は厳しい。強風が吹き、朝晩は凍えるほど冷え込む。冬到来を前に今、ジェンのドホーク支部は越冬支援の準備に忙しい。テントの屋根に設置して寒気を遮断するプラスチックシートなどが入った「シェルターキット」を配布すると決めた。

 支援業務を進める際は、なるべく現地スタッフと一緒に考える。「仮に私たちがいなくなっても支援が続いていく仕組みを作ることが重要」と太田さん。身も心も現地に寄り添い、避難民の明日を思っている。(カイロ 久保健一)

「すぐ現地へ」が原点

ジェン(JEN)の歴史は、1994年、内戦状態にあった旧ユーゴスラビア地域で緊急支援を行うため、国内六つのNGO(民間活動団体)が、「日本緊急救援NGOグループ」を組織したことにさかのぼる。2000年には特定非営利活動法人の認証を受けて、現在のジェンが誕生した。

 これまで支援してきたのは世界24か国・地域の1000万人。現在はアフガニスタン、パキスタン、イラク、ヨルダン、スリランカ、ハイチ、ネパール、日本(東北)で、日本人を中心とした国際スタッフ約50人と、現地スタッフ約200人が、「水衛生」「教育」「心のケア」などの事業に取り組んでいる。

 その特徴は、発足の原点にもあった「緊急支援」へのこだわりだ。現場に一刻も早く駆けつけることで人々のニーズにこたえようと、01年のアフガニスタンや03年のイラクなど、大きな戦乱や災害が起きた場所にすぐさま人員を派遣してきた伝統は、今も生き続けている。

 また、ジェンは難民や国内避難民、被災者の「自立」を何よりも重視する。生きる意欲を失いがちな人々が自らの尊厳を取り戻せるよう、コミュニティー作りをサポートする活動などにその理念は生きている。

「支援効果手応え 一層貢献したい」

木山啓子事務局長

「地道な支援の効果に手応えを感じているが、支援を必要とする人が増えている状況なので、一層貢献していきたい」。1994年以来活動に従事してきた木山啓子事務局長(55)=写真=は、今後の抱負を語っている。

「日本政府の対応にも示唆」 佐藤行雄・選考委員会座長

 ジェンは長年、世界各地の紛争や災害によって国内避難民や難民となった多くの人々に対し、幅広い緊急支援活動を行ってきました。特に、日本のNGOとして、「イスラム国」の恐怖から逃れた避難民支援のために、いち早くイラク北部クルド自治区に赴き、困難の中で給水活動を始めた行動力は卓越しています。  国内避難民、流出難民双方の増加への対応が国際社会の課題になる中、避難民や難民の自立と帰還を重視したジェンの地道な支援は、この問題への日本政府の対応にも示唆を与える、極めて今日的な意義を有するものと思います。


(2015年11月06日 読売新聞)