科学フォーラム富山「宇宙の謎に挑む」

「ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム 次世代へのメッセージ」が10月1日、富山市の富山大学黒田講堂で開かれた。梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長(2015年物理学賞)、宇宙論で著名な村山斉・東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長らを招き、「宇宙の謎に挑む」をテーマに、講演とパネルディスカッションを行った。富山県境に近い岐阜・神岡地区の巨大地下施設で進む最先端の宇宙・素粒子研究が紹介され、高校生ら約400人の参加者は熱心に聴き入っていた。

(文中敬称略)

写真:フォーラムの様子
パネルディスカッションで意見を交わす(左から)梶田氏、村山氏、渡辺氏=細野登撮影

参加受賞者
梶田隆章 東京大学宇宙線研究所長(2015年ノーベル物理学賞)
パネリスト
村山斉(ひとし) 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長
渡辺誠 富山市天文台専門官
コーディネーター
芝田裕一 読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員

基調講演 梶田隆章氏「素粒子謎解き ワクワク」

写真:梶田隆章氏
かじた・たかあき

1959年生まれ。埼玉大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。東大宇宙線研究所助教授、教授などを経て、08年から現職。15年「素粒子ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動の発見」により、ノーベル物理学賞を受賞。。

高校、大学と弓道部に所属し、弓ばかり引いていたので、勉強はそこそこだった。ただ、物理学にも魅力を感じて大学院進学を決意し、弓道部の主将を辞退して受験に専念した。大学院では素粒子や宇宙線などの実験的な研究に興味を持ち、素粒子の一つであるニュートリノの研究を始めた。

ニュートリノは他の素粒子と違い、何でも通り抜ける性質がある。地球さえも突き抜けるが、ごくまれに物質とぶつかることがある。それを観察できるのが、岐阜県の旧神岡鉱山に建設したカミオカンデという巨大な観測装置だった。

研究者というと、白衣を着て実験するイメージが強いが、当時、私たちは作業服にヘルメット、長靴姿で毎日、鉱山に入って装置を作り続けた。こうした準備作業が物理学の発展に貢献すると思うと、大学院生ながら非常にやりがいを感じ、本気で研究者になろうと考えるようになった。

カミオカンデで観測を続けていると、3種類あるニュートリノのうちの一つ、ミューニュートリノの数が、予想よりもずっと少ないことがわかった。装置の不具合やデータの間違いでは説明がつかず、未知の現象が起こっているのではないかと考え、この謎の解明に専念しようと決めた。謎解きをするワクワク感があり、この頃は研究者として一番楽しい時期だった。

カミオカンデの約20倍大きいスーパーカミオカンデという装置で観測した結果、地球の反対側からくるニュートリノは、飛んでいる間に種類を変える(振動する)ことが突き止められた。

これにより、それまで質量(重さ)がないと考えられていたニュートリノに、実は小さいながらも質量があることが判明した。この質量の発見は、素粒子や宇宙のことをより深く理解する重要なカギになった。

私がこの発見に最初から関わることができたのは、いい恩師や仲間に恵まれたからで、本当に幸運だったと思う。若い皆さんにも、人生を決めるような出会いをぜひ大切にしてほしい。

今後は、昨年、米研究チームが初観測に成功した重力波の研究にも力を入れていく。スーパーカミオカンデと同じ旧神岡鉱山に建設中の重力波観測装置「KAGRA」で、数年後の観測を目指している。宇宙には、解明すべき謎がまだたくさんある。神岡でニュートリノと重力波を同時に観測することで、天文物理学をさらに発展させていきたい。

講演 村山斉氏 「ニュートリノ 我々の父」

写真:村山斉(ひとし)氏
むらやま・ひとし

1964年生まれ。東京大学理学部卒。博士(理学)。東北大学助手、米ローレンス・バークレー国立研究所研究員などを経て、2007年から現職。米カリフォルニア大学バークレー校教授を兼務している。

私が宇宙の謎を研究している理由の一つは、「私たちはどこから来たのか」という問いの答えを突き止めるためだ。

巨大望遠鏡はタイムマシンのようなもので、宇宙誕生のビッグバンから38万年後、すなわち138億年前の宇宙の姿もわかる。水素とヘリウムはビッグバン直後にできたことが、観測で確かめられている。

その水素やヘリウムが星の中心部で合体し、私たちの体を構成する炭素や窒素、酸素や鉄などの重い元素ができた。星が生涯の最後に大爆発(超新星爆発)を起こし、重い元素を宇宙にばらまいた。私たちの太陽系は、そのちりがもとになってできた。

「私たちはどこから来たのか」と尋ねられたら、「星から来た」と答えるのがいちおうの正解になる。人は「星くず」なのだ。

でも、そもそも水素やヘリウムのおおもととなる素粒子が、なぜビッグバンで生まれたのかはわかっていない。今言われているのは、梶田さんたちが観測しているニュートリノと関係がありそうだということだ。

宇宙の始まりの瞬間には、物質と、プラスマイナスが逆の電気を帯びた反物質が、1対1の割合でできたと考えられている。物質と反物質が出会うと互いに消滅してしまうので、宇宙は空っぽになるはずなのに、今の宇宙には、物質だけが残っている。これが宇宙最大の謎の一つだ。

物質と反物質のバランスを崩したものは何か。その有力候補がニュートリノだ。マイナスとプラスの素粒子は互いに入れ替わることができないが、ニュートリノだけは電気を帯びていない。物質のニュートリノと反物質のニュートリノ(反ニュートリノ)の一部が入れ替わり、バランスが崩れたのではないかという説を日本人科学者らが唱えている。

ニュートリノと反ニュートリノの間に違い(バランスの崩れ)はあるのか。スーパーカミオカンデを使った実験で、そのヒントとなるデータが得られつつある。ニュートリノは、物質の世界を消滅の危機から救った、私たちの「父親」のような存在なのかもしれない。

パネルディスカッション 宇宙 今でも謎だらけ/やりたいこと 夢中で

重力波天文学 これから盛んに

渡辺誠 富山市天文台専門官

1954年生まれ。名古屋大学理学部卒。富山市天文台主幹学芸員を経て2015年から現職。

――スーパーカミオカンデでニュートリノ振動以外に何を観測したいか。

梶田我々の銀河系の周辺で起きた超新星爆発は、1987年を最後に観測できていない。2年後をめどに改造して、銀河系の外で頻繁に起きている超新星爆発由来のニュートリノを捕まえたい。

――KAGRAの重力波観測で何がわかるのか。

写真:KAGRA
建設中の重力波観測装置KAGRA(国立天文台提供)

村山KAGRAとスーパーカミオンデと光学望遠鏡による観測を組み合わせると、ブラックホールが生まれた瞬間を見ることができるかもしれない。

写真:スーパーカミオカンデ
1万本以上の光センサーが埋め込まれたスーパーカミオカンデ(東大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設提供)

――神岡にあるエックスマスという装置の狙いは。

村山宇宙の大きな謎の一つ、正体不明の暗黒物質を探す装置だ。暗黒物質の候補はいろいろある。候補によって観測装置も異なる。運がよければエックスマスで検出できると思う。

――暗黒物質の最有力候補は何だと考えるか。

村山私たちは、パイ中間子に似た粒子ではないかという新説を発表した。もしそうだったら、茨城県つくば市にある加速器で作り出せる可能性がある。

渡辺私が一番知りたい謎は暗黒物質だ。ぜひ神岡で検出してもらいたい。

梶田暗黒物質を探す方法はたくさんあって、スーパーカミオカンデでも暗黒物質同士がぶつかって生じた粒子を探している。

――スーパーカミオカンデよりも大きいハイパーカミオカンデを建設できたら何がわかるのか。

梶田村山さんが講演で話したニュートリノと反ニュートリノの違いを探ることが一つ。もう一つの狙いは、カミオカンデ実験の最初の大目標だった「陽子崩壊」を捉えることだ。

――宇宙や素粒子の研究で、今後盛り上がりそうな分野は何か。

写真:芝田裕一・読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員
コーディネーターの芝田裕一・読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員

梶田昨年初めて重力波が観測された。400年前に初めて望遠鏡で天体を見て天文学が始まったように、これからは重力波天文学が盛んになると思う。

村山宇宙を加速的に膨張させている未知の力を暗黒エネルギーと呼んでいる。暗黒エネルギーの正体を調べて宇宙の運命を予測する研究も盛り上がっている。

――宇宙に関心のある若者にメッセージを。

渡辺星をずっと観測するには体力が必要だ。英語もできた方がよい。

村山大事なのは情熱だ。これはすごく面白いから絶対やり遂げるぞという気持ちで当たってほしい。

梶田本当にやりたいことを見つけて夢中になって進むこと。その出会いが科学研究であればうれしい。きょう女子学生の聴講者が多いのは、科学界にとって大変よいことだと思う。

質疑応答 なぜ今の仕事を? 色々考えるのが好きだった/反物質の世界 存在するの? ずっと向こうの宇宙にあるかも

――なぜ今の仕事を選んだのか。

梶田本を読むより実験装置を作るためにネジを回しているほうが100倍くらい好きだった。理論(物理学の専攻)はたぶんありえないと思っていた。

村山(理論物理学を選んだのは)色々なことを考えるのが好きだったから。実験をやっていたこともあったが、ネジ回しは下手だった。

渡辺中学・高校で科学館に通って様々なことを教えてもらった。星を観察するのが好きで、富山は(天体観測が盛んで)全国的に知られていたからだ。

――神岡に研究施設を建設した理由は。

梶田岩盤が硬いなど施設に適した条件だった。小柴昌俊先生(2002年ノーベル物理学賞)が1960年代に一度、神岡で実験を行って人的つながりがあった。鉱山側が科学研究に好意的だったことも大きかった。

――ニュートリノの速さはどれくらいか。

梶田光のスピードよりほんの少し遅い。

村山小柴先生が捉えた宇宙ニュートリノは16万光年離れた銀河での超新星爆発で生まれた。この星は撮影できているので光でも我々が捉えていることになる。ほぼ同じ時間で地球に到着していることから、ニュートリノは光の速さに近いといえる。

――反物質の世界はあるのか。

村山私たちが観測できる範囲の宇宙では、物質と反物質が出会った瞬間に、ものすごい消滅が起きるはずで、それは見えていない。私たちには見えていないずっと向こうの宇宙に、反物質の世界があるかもしれないが、いまのところ証拠は見つかっていない。

――宇宙の外側はどうなっているのか。

村山宇宙は同じようにずっと続いているのではないかと思われている。あるいはずっと進んでいくと、(ひと回りして)向こうから帰ってくるのかもしれない。少なくとも1000億光年は帰ってこないことはわかっているが、もし帰ってくるとしたら外側がないことになる。

写真:フォーラムの様子
パネリストに質問する高校生

フォーラム参加者の声

粘り強さに驚いた

富山県立富山高校2年、松原芽衣さん(17)(富山市)「質量がないとされてきたニュートリノの定説を疑おうとする梶田さんの発想や、批判があっても自説を証明しようとする粘り強さに驚いた。今後は女性の力が求められるというメッセージもあり、研究職を志望する気持ちが強くなった」

反物質 身近とは

富山県立富山中部高校1年、品川俊輔さん(16)(同)「反物質は映画やSFの世界の話だと思っていたが、村山さんの講演で、医療現場にある身近な存在だと知り驚いた。宇宙の謎を解き明かすことは、自分たちがどこから来たのかという根本的な問題にもつながっていくことがわかった」

情熱が大切と実感

富山大大学院理工学教育部博士課程1年、桜井亘大(こうだい)さん(24)(同)「研究で一番大切なのは情熱だという村山さんの話を聞いて、本当にそうだなと実感した。自分が本当に興味を持てるテーマを見つけられたら、研究者としての道を進んでいきたいと思った」

  • 主催=読売新聞社
  • 後援=外務省、文部科学省、NHK、富山大学

(2016年10月26日 読売新聞)