読売・中公 女性フォーラム21(福岡)読売・中公 女性フォーラム21

家族のあり方や価値観が変化する中、熟年世代は、自らのエンディングに向けどのような心構えが必要か。

11月14日、福岡市の福岡銀行本店大ホールで開催した読売・中公 女性フォーラム21では、女優で俳人の冨士眞奈美さん、大分大学教授の椋野(むくの)美智子さん、相続コーディネーターの曽根恵子さんが「譲る愛、譲らぬ愛――熟年世代の財布と相続を考える」をテーマに語り合った。

会場を埋めた約500人の聴衆は、相続のあり方などに熱心に耳を傾けた。(文中敬称略)

写真:フォーラムの様子
パネルディスカッションする女優の冨士眞奈美さん(左)ら
▽基調講演
冨士眞奈美 女優・俳人
▽パネル討論(順不同)
冨士眞奈美
椋野美智子 大分大教授
曽根恵子 相続コーディネーター
▽コーディネーター
秦野るり子 読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員

基調講演 冨士眞奈美さん「自分の総括 人それぞれ」

写真:冨士眞奈美さん
ふじ・まなみ

静岡県出身。NHK専属女優となり、連続ドラマ「この瞳」で主役デビュー。代表作にドラマ「細うで繁盛記」「ハゲタカ」「つばさ」など。俳人、エッセイストとしても活躍している。

私は、6人きょうだいの3番目として静岡に生まれた。そしてすぐ下の長男である弟が、家屋敷を継ぐものと思っていた。

18歳でNHK専属として女優になってからは、ずっと自立してやってきた。20歳の時、新聞記者だった父が、亡くなった。葬儀の時、わずかな借金を取りに来た人がいた。

翌日、私が返しに行ったが、父の不始末などと悪く思ったりはしない。私の日常を支えてくれている俳句やオペラなどの魅力を教えてくれたのは父であり、受け継いだものの方がずっと大きかったからだ。

きょうだいの間で財産についてもめたことは一度もない。「きょうだい仲良く」という母の言葉が、染みついているからだろう。

きょうだいでもめるという話が不思議でならない。私にはおんぼろの母のミシン、祖母のタンスなど、思い出がつまった品々の方が、家や土地よりもずっと大事だ。

先日、近所で暮らす未婚の一人娘が、「ママにもしものことがあったら、どう家を整理したらいいのか」と言う。

私は人様からいただいた本が大事で、たくさんの本にうずもれるようにして暮らしている。テレビの俳句番組に出演した時、〈葉桜やわがものすべて子に与ふ〉という句を詠んだことがあるが、全部あなたに残すから好きにしてと言うと、生きているうちにきれいにしてと、懇々と言われてしまった。

娘のためにも、資産運用は堅実にしないといけないと思っているが、親友の女優・吉行和子さんは独り身なので、「使い切りの人生でいいんだ」と、とても潔い。せいせいとしていいなとうらやましい。

一方で、仲良しだった岸田今日子さんは、決してぜいたくをしなかった。今思うと、愛する家族に少しでも多くのものを残してあげたかったのかもしれない。

6年前に亡くなった小林千登勢さんは、私のものはすべて孫に残すと言っていたことを覚えている。

亡くなる直前、俳句を作りたいと言われ、歳時記、ノート、鉛筆があれば大丈夫と伝えた。枕元に、ちゃんと準備してあったそうで、自分のことをきちんと総括したかったのだろうなと思う。

報告 椋野美智子さん「老後の備えを分散」

写真:曽根恵子さん
むくの・みちこ

大分県出身。1978年、厚生省(現・厚生労働省)に入省。98年、政府として初めて少子化を取り上げた「厚生白書」を責任執筆。内閣府参事官などを経て2006年から大分大学教授。

日本の平均寿命は男性が79歳、女性が86歳。熟年世代を、定年や年金を受け取れる60歳頃からと考えると、私たちは20~30年先の生活を考えなければならない。

一方で、30年前は終身雇用も約束されていたし、65歳以上の人口が全人口に占める割合である高齢化率は9%で7割が親子同居だった。

今は高齢化率22%、同居は4割程度で高齢者の独り暮らしが増えている。つまり、30年先は何が起こるかわからない。だから、備えは社会保障、貯蓄、家族や地域というふうに分散させた方がいい。

基礎となるのは社会保障。公的年金でどれだけ収入が保障されるか、公的医療保険や介護保険でどれだけ費用が保障されるかによって、自分たちで準備しておかなければならないお金の額は全く違う。

社会的な「負の相続」についても考えるべきだ。一つは国債。800兆円になったと言われる。これは将来の子どもに負債を残す。もう一つは少子化だ。

日本の高齢化率は世界でトップだが、租税や社会保障の負担率は、6、7割に達するヨーロッパ諸国に比べれば4割程度でさほど高くない。

保険料や税を上げ、信頼できる社会保障を再構築して、貯蓄など個人の備えや財産の使い道について計画を立てられるようにすべきではないか。

報告 曽根恵子さん「多い相続トラブル」

写真:曽根恵子さん
そね・けいこ

京都府出身。2000年に相続に関する無料相談を開始。現在は相続をコーディネートする「夢相続」を運営。NPO法人「資産相続総合相談センター」理事長も務める。

相続は、誰もが経験することだ。私が携わった相談をみると、トップは遺産分割のもめ事で全体の3割超。離婚や再婚など家族関係が複雑になったうえ、失業など将来への不安要素が増え、財産に固執する人が多くなっている。

こうなると、財産の多い少ないに関係なく相続人同士が感情的になり、トラブルが深刻化する。中には財産を隠したり、言い争いを通り越して顔も合わせなくなったりする。感情的なしこりは、金銭に代え難いダメージとして長く残る。

相続は本来、厳粛な儀式で、亡くなった人への感謝や家族への思いやりを再認識する機会のはずだ。そこで、2点提案したい。

まず、オープンな相続を目指すこと。誰でも隠されると疑心暗鬼になる。

もう一つは、相続には「用意」が必要だということ。円満に相続を終える家族は生前から話をしておいたり、遺言書があり争う余地がない場合が多い。

遺言書を作った場合、作ったこととその内容を生前から相続人全員に知らせ、意思疎通を図っておくことも大切だ。

金銭的な財産を残すことも大事だが、自分の意思を伝え、争いのない相続を用意することも重要だ。

それが、本当に価値ある財産になるのだと思う。

パネル討論

~ 「最期の意思」事前に準備を ~

――冨士さんの基調講演でいくつか相続の事例が出た。家は長男である弟さんが相続するという。

冨士きょうだいの仲が良く、全然問題はない。

――親族が残した借金は払わなくてもよいのでは。

曽根総額でマイナスになるなら、相続を放棄することができる。ただ、ほかの人が相続して借金を背負い込まないよう、放棄したことを知らせるべきだ。

――法定相続人は限られる。例えば、夫を亡くした妻が夫の親を介護していたような場合はどうか。

曽根遺言書がない限り、相続は配偶者と血縁者に限られる。介護で苦労してもお嫁さんには権利がない。親の介護が必要になった時点で、費用の分担などについて話し合っておくことが大切。世話になったお嫁さんにも相続させたいと思ったら、そう書くべきだ。

――アルツハイマー病などで意思を示せなくなることもある。

椋野判断能力を失った人の代わりに財産管理などの法律行為をしてくれる「成年後見人」を家裁が選定する仕組みがある。あらかじめ自分で選定しておくこともできる。また、社会福祉協議会が日常的な金銭管理などを代行する事業もある。活用してほしい。

曽根人生の最後をどうするのか自分の意思を事前に決めておきたい。遺言書は敷居が高いというなら「動けなくなったらどうしたい」といったことや財産の内容について、ノートに書き留めることから始めてみてはどうか。

椋野親族や友人など自分の人間関係も併せてノートに書いておくといい。任意成年後見人をだれに頼んでおけばいいかも分かってくるのでは。

――最近、自らの葬式のやり方を決めておく人が増えている。

冨士最近亡くなった親しかったある人の場合だが、通夜と葬儀は、ごく近い身内と親しかった友人のみが参列し、私も納骨まで付き添った。大げさなことを嫌ったご本人らしくて、いいなと思った。

曽根自分がイメージするような葬儀になるよう、葬儀社を指定しておく人もいる。遺言でなくても「こうしてほしい」と話しておけば実現しやすい。

――老齢世代がお金を貯(た)めすぎているとも言われる。将来への不安が強いのか。

椋野必要なのに我慢してお金を使わないのは残念なこと。将来を心配しすぎなくても大丈夫なように、年金などの様々な社会保障制度への信頼を取り戻すことが大切。そのためには、国民の負担がもう少し増えると思う。

冨士介護が必要になった時、娘だけに世話を押しつけたくない。介護を受けるためのお金について考えておきたい。自分の始末は自分でつけたいな、と。日頃から隣人と仲良くし、近所の店で買い物や雑談をして、何かあったらすぐに駆けつけてくれる相互の信頼関係を築いている。

椋野地域にそうした人間関係を持つことは熟年の生活の理想型だ。しかし、郊外型店舗の増加で地域のお店がどんどんつぶれ、近所の人と顔見知りになったりおしゃべりをしたりする場が少なくなっている。

冨士一朝一夕に関係ができるわけではない。もらい物をおすそ分けし合ったり、地域の行事に積極的に参加したりしている。こちらが心を開かなければ相手も心を開いてくれない。

曽根相続の現場では、身内なのに心を開いて話し合えず、悲惨な争いになるケースもある。それを避けるためにも日頃から親きょうだいでコミュニケーションを取ってほしい。遺言は思いついたときに少しずつ書き始め、状況が変わればまた書き直せばいい。

――自分の人生をどう締めくくることができるか。その準備をするのに早すぎるということはなさそうだ。老後の生活を支える様々な制度についても知っておきたい。

(2016年02月09日 読売新聞)