東アジア・シニアリーダーズ・フォーラム「東アジア・シニアリーダーズ・フォーラム 21世紀地域秩序の創造」

共存共栄へアジア結束

東アジアの元首脳たちが地域問題を討議する「東アジア・シニアリーダーズ・フォーラム――21世紀地域秩序の創造」(読売新聞社、世界平和研究所共催、外務省、福岡県、福岡市後援)が3月31日、福岡市の福岡国際会議場で開かれ、約1000人の聴衆を前に、東アジア共同体、経済連携、安全保障など幅広い課題を巡って活発かつ率直な論議が繰り広げられた。フォーラム呼びかけ人の中曽根康弘元首相を含む元首脳5人が福岡に会し、基調演説、討論を行った。それぞれの内容と、中曽根元首相が出席者を代表して発表した総括10項目の要旨など、フォーラムの議論とポイントを紹介する。(文中敬称略)

▽フォーラム参加者(順不同)
日本 中曽根康弘・元首相
インドネシア メガワティ・スカルノプトリ前大統領
韓国 金鍾泌・元首相
フィリピン フィデル・ラモス元大統領
タイ チュアン・リークパイ元首相
マレーシア マハティール・モハマド前首相(ビデオメッセージ参加)
中国 銭其チン・前副首相(書面メッセージ参加)
▽司会
柿沢弘治 元外相

基調演説 中曽根康弘元首相「日本は平和と通商重視」

写真:中曽根康弘元首相

1918年、群馬県高崎市生まれ。82年から87年まで首相。元衆議院議員。世界平和研究所会長。東アジア・シニアリーダーズ・フォーラム呼びかけ人。

東アジアでは2つの地域機構の成立が進んでいる。東南アジア諸国連合(ASEAN)に日中韓を加えた13か国、さらにオーストラリア、ニュージーランド、インドを加えた16か国で、16か国は東アジア協力機構、首脳会議と言うべきものだ。どちらも共存させ、重層的に建設されるべきだろう。両者の展開で東アジアの将来はさらに発展し、開放性を持った地域機構になる。

問題点もある。日中韓3か国関係が必ずしも良好でなかった。また、米国との関係をどうするかだ。欧州連合(EU)に北大西洋条約機構(NATO)があるように、安全保障の基礎なくして共同体、経済協力機構は成立できない。安全保障上の米国の役割を考えれば、私は16か国に米国を加える議論に傾いている。

北朝鮮は東アジアの大きな課題である。資源の合理的利用、地球温暖化、環境問題、テロ、海賊問題もある。経済面では、アジアの共通基金、債券市場の育成があり、自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)も進行中だ。域内にこのネットワークが張られ、動き出せば東アジア共同体には大きな前進となる。

これを踏まえ、日本の東アジア政策を説明したい。日本は第一に海洋国家であり、平和を求め、貿易・通商を重要視する。第二にASEANプラス3(13か国)、ASEANプラス3プラス3(16か国)の協力体制を推進し、東アジア諸国と共存共栄する固い決意を持つ。

第三に省資源・環境・産業技術で積極協力する。第四に日本は軍事国家にはならない。憲法改正の動きや最近の防衛省発足は普通の国になろうとする努力の表れである。

基調演説 メガワティ前インドネシア大統領「ASEAN軸に地域共同体」

写真:メガワティ前インドネシア大統領

1947年生まれ。建国の父スカルノ初代大統領の長女。2001~04年までイスラム圏で初の女性大統領。最大野党「闘争民主党」党首。

21世紀はアジア・ルネサンスの時代だ。アジア通貨危機を通じ、相互支援と協力なくして経済権益を守れないことを学んだ。津波、鳥インフルエンザといった苦難にも、共に取り組むべきである。インドネシアには、「ゴトン・ロヨン(役割の分担)」という言葉がある。アジアの「助け合い精神」は過去の世代から受け継いだ知恵だ。ゴトン・ロヨンをアジア地域協力の原則としよう。

東アジアには、〈1〉格差〈2〉地域安全保障〈3〉歴史と文化の重み――といった密接な協力を阻む問題点がある。日本や韓国という豊かな国もあれば、ラオスや東ティモールなど途上国が存在する。また、テロ、朝鮮半島の核、分離独立運動、領有権争いなど世界の地政学に影響を及ぼす安全保障上の難題もある。多くの国々が植民地時代という歴史的な痛みを抱え、諸国間の関係に影を落としている。

問題解決には、協力戦略が不可欠だ。地域協力は民主的かつ平等を基盤としなければならない。そのために発展の格差を埋めなければならない。特に、貧困撲滅に向け、地域に新しい機関を創設し、アジア開発銀行のような既存の国際的機関と併用すべきである。

地域共同体の構築には、東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸とすべきだろう。ASEANを基礎とすれば、結束力の強い東アジア共同体が創設できよう。ASEANプラス3(日中韓)を将来、ASEANプラス3プラス3(インド、オーストラリア、ニュージーランド)に発展させられるかもしれない。第一段階として、単純に思える協力の積み重ねにより、相互信頼を深めていくことだ。

基調演説 金鍾泌元韓国首相「アジア通貨基金 具体化を」

写真:金鍾泌元韓国首相

1926年生まれ。61年、朴正煕(パク・チョンヒ)少将のクーデターに参加。71~75年、98~2000年に首相を務める。

東アジアの平和と繁栄のため、いくつか提案をしたい。1点目は朝鮮半島と北朝鮮の核問題だ。1972年以降、南北は対話の道を歩み始めたが、結局は成果がなかった。今年2月、6か国協議で合意に至った。だが、北朝鮮は公言した核関連の約束を守ってこなかっただけに、今回も注意深く見守る必要がある。

韓国と北朝鮮は91年、国連に同時加盟した。これは半島が統一されるまでは平和的に共存する、という意志の表れだ。南北の平和統一まで、北朝鮮の政治体制を物理的に変化させる企ては穏当ではない。国際社会が平和共存と体制維持を保証する条件下で、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)と国際原子力機関(IAEA)に復帰し、核の一切を廃棄しなければならない。

北朝鮮の体制保証、南北の平和共存、核廃棄、拉致問題解決の後、北朝鮮の自立まで国際社会が支援し、国交正常化に進むという構図が当面の解決方法だ。北朝鮮に提案したい。なぜ、経済発展する中国、韓国から学ぼうとしないのか。

2点目の提案は、地域共同体の構築だ。アジアには様々な文化、宗教が共存する。この多様な要素は地域統合の障害である一方、繁栄のために統合の必要性を提起している。30年後には経済力でアジアが世界最大となる予測がある。明日のために準備しておかねばならない。第一歩として、アジア通貨基金(AMF)の創設を具体化させる時期にきている。自由貿易協定(FTA)も域内諸国で幅広く締結すべきだ。東アジアにおける地域共同体の構築は、各国が米国の協力を確保し、それを基盤として発展させていくのが順序だろう。

基調演説 ラモス元フィリピン大統領「対等に築く平和と安定の体制」

写真:ラモス元フィリピン大統領

1928年生まれ。軍副参謀総長として86年、マルコス独裁政権崩壊の「民衆革命」で活躍。国防相を経て92~98年、大統領。

私はアジアの若者のために発言したい。日本の再生、中国・インドの台頭と韓国の躍進で、東アジアには1960~97年より大きな成長のうねりが来ている。これは、いかに平和と安定の傘を維持するかという新たな挑戦も提示する。

地域には火だねもある。中国は大国の地位と中心的役割を求め、日本がこれに異議を唱えるだろう。東シナ海エネルギー資源争奪や領有権問題、インドネシア、タイ南部でのイスラム過激派の台頭、そして不安定な北朝鮮がある。

これらの対立要因を前に、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は、違いを超えて経済・文化・社会統合へ努力し、今年11月にASEAN憲章を提示する予定だ。このファミリーが中国、韓国、日本とともに、東アジア共同体へと広がらない理由はない。

中国は地域の経済成長の牽引(けんいん)力だ。2010年までに「中国・ASEAN自由貿易地域」が完成すれば、人口で見れば世界最大規模の自由貿易圏が誕生する。

現政治指導者に言いたい。米国の軍事力による現在のパックス・アメリカーナを、いかにパックス・アジアパシフィコに置き換えられるか考えてほしい。パックス・アジアパシフィコは域内諸国が対等に築く平和と安定の体制だ。

中国が建設的に貢献できるためには、「責任あるステークホルダー(利害関係者)」となる必要がある。日本も、より責任ある役割を果たせるだろう。新たな協力体制の中で日中、日韓間の過去の傷も癒やされ、新たな課題に取り組めるようになるのではないか。

基調演説 チュアン元タイ首相「開かれた地域主義目指す」

写真:チュアン元タイ首相

1938年生まれ。法相を経て92~95年、首相。97年の金融危機によるチャワリット政権の退陣を受けて首相に復帰、2001年まで務めた。

世界はより不安定で予測不可能になる一方、相互依存を深める。アジア地域で民主主義が進歩を遂げた場もあれば、挑戦を受けた所もある。タイも例外ではない。軍が介入すれば、混乱する。民主主義に勝るものはない。

いま東アジアの全諸国が新しい環境に対応する将来展望を考える時だ。グローバリゼーションの風が強く吹く中、地域主義の力も強い。中国、日本、韓国も地域協力に熱意がある。

タイは東アジアの一員として地域結束を重視してきたが、最近、ASEANが焦点を見失ったようにみえる。逆に欧州や北米では統合が深まり、拡大した。彼らの統合モデルを模倣するのではなく、統合深化に焦点を絞るべきだといいたい。

また、一国だけでは対応できない問題が山積する。国際、国内テロ、核拡散、地域紛争、感染症、国境を超えた犯罪、地球温暖化や大規模な自然災害。どの国も安全とはいえない。

東アジアには大きな潜在力と人材がありながら、十分に活用されていない。共通の政策や団結、協力が足りなかったためかもしれない。同時に、文化的にかけ離れていない一方で、多様性がある。シナジー(相乗作用)を持つ、開かれた地域主義を目指そう。

では、どんな新秩序を構築すべきか。第一に、互いを犠牲にしてはならない。第二に、秩序の将来展望を共有し、地域の多様性を認識する。第三に平和と安定、そして持続する成長を目指す。最後に、新たな地域機関を創設し、政策や目標策定のエンジンとしよう。過去は変えられないが、未来は変えられるのだ。

ビデオメッセージ マハティール前マレーシア首相「欧米と均衡するパワーの役割」

写真:マハティール前マレーシア首相

日本はもちろん、韓国、中国、インドの台頭に伴い、欧州には東アジア諸国が世界経済を席巻し、軍事的に世界を支配しかねないとの危機感が生まれている。恐怖の念から欧州と東アジア間に緊張が生じている。

しかし、アジアの哲学、考え方は欧州と違う。マレーシアの歴史的経験でいえば、16世紀以来、欧州は貿易を独占し、植民地化を図った。東洋は貿易相手を植民地化したり、自らのイデオロギーを押しつけたりしなかった。ここに哲学、理念の相違がある。

東アジアは日本や韓国、中国、インドの台頭で経済的に強くなるし、東南アジアも大きな力になる。この力とは軍事力ではない。欧米と均衡するカウンターバランスとしての拮抗(きっこう)力だ。その意味で、東アジアは世界のパワーバランスの要となれることを忘れてはならない。

ある国が強大になり過ぎ、他国がかなわなくなると、その国は力の乱用に走るだろう。対抗策は、その力を無力化できる力を持つことだ。東アジアが未来の世界に果たす役割は大きい。それは、国家間の関係を安定させ、バランスを取る大切な役割だ。国家間の紛争解決は戦争ではなく、交渉や仲裁、国際的な司法の場に訴えるべきである。

人は自らの選択で民主的になれるが、強制されて民主的になることはない。世界では異なる政治体制が許容されるべきだ。民主主義とて完全ではない。核兵器を最初に使用したのは、ある民主主義国家であったのだから。

書面メッセージ 銭其チン前中国副首相「地域の責任担う中国と日本」

写真:銭其チン前中国副首相

グローバル経済の中で、アジアはいまや世界で最も活力と潜在能力がある地域だが、一方で各種の矛盾が比較的目立つ。平和、安定、協力、発展という調和の取れたアジアをいかに構築するかは重大な課題だ。

そのためには第一に、各国が政治的に信頼関係を築き、平和のきずなを深め、地域の長期的な安定を実現すべきだ。第二に地域経済の一体化を推進し、地域発展の格差を縮小し、共同発展を実現すること。第三に安全保障分野での相互の疑念を一掃して各国の利益に合致する安全協力関係を構築し、第四に地域の多様性を維持しつつ、開放的で活力にあふれた環境を作るべきだ。

この10年間、ASEANと中日韓を主なチャンネルとして、東アジアの協力が進められた。経済貿易分野から始まり、政治的な相互信頼を育成し、地域の実情にふさわしい協力の道を模索してきた。東アジア首脳会議の開催に伴い、協力のあり方が新しい発展の段階に入りつつある。協力分野を拡大し内容を充実させ、もっと高いレベルに引き上げていくべきだ。

かつて、ひどい屈辱を受けた中国人民は、国家主権と平和安定の大切さをよく分かっている。中国は広範な国際協力を通じ、各国とウイン・ウインの関係を築いていく。決して東アジアにおいて支配的な地位を求めない。中国と日本は地域の平和、発展と繁栄に重要な責任を負う。両国の平和共存や互恵協力が実現して初めて、アジア各国人民の期待に応えられよう。(代読=武亜朋・中国駐福岡総領事)

討論

地域の安全保障

柿沢アジア地域の安全保障を、米軍のプレゼンスなくして維持することは可能だろうか。

地域に集団安保可能/中曽根

中曽根ラモス氏が提起したパックス・アジアパシフィコに私は基本的に賛成だ。国連憲章には集団安全保障の条項があり、憲章にも沿うものだと思う。

内容をどうするかだが、東南アジア諸国連合(ASEAN)には東南アジア友好協力条約(TAC)という集団安保の条約があり、相互不可侵、紛争の平和的解決を定める。日本が日米安保条約を堅持したままTACに参加するのを、ASEANは認めた。中国も参加している。その意味で、TACの概念をアジア太平洋地域に拡大できるのではないか、と考える。

  • 「東南アジア友好協力条約=TAC」 1976年に調印されたASEANの基本条約。地域の平和と安定、経済協力の強化を目指し、加盟国の主権尊重、紛争の平和的解決などを定めている。88年の改正でASEAN以外の国も加盟が可能になり、日本や中国、フランスなども調印している。

米国から離れてアジアの防衛システムを創設するのは時期尚早と思う。

北朝鮮は米韓の合同軍事演習に激しく反発するが、同盟国の米国との演習を非難されるいわれはない。韓米両国でどこかに攻め入ろうというのではなく、国家としての基本的構えを練っているだけのことだから。

チュアンだれかとつき合う時に、別の人とつき合わないということはない。お金がある人は、金持ち同士でつき合いたがるが、近所の貧しい人ともつき合うという姿勢が、個人レベルでも国家レベルでも必要だ。この方法で、共に地域を発展させることができる。

ラモス私が提起したのは目新しくはない。米国の軍事力はイラクやアフガニスタンでめいっぱいに広がっている。世界の警察官としてバルカン、ハイチなどでも活動しており、いつかアジア太平洋に手が回らなくなるかもしれない。

一方でオーストラリアやニュージーランドにはアジアの一部として、防衛面で大きな役割を果たす意欲があるかもしれない。

米国は1992年、フィリピンに基地を返還し、駐留をやめたが、依然、合同演習は実施している。大事なのは、中国を含め、共通の安全保障の傘に貢献するということだ。ASEAN諸国は国際テロとの戦いを確約し、情報交換や合同訓練を実施する。これが将来、広範な軍事的な協力関係に発展するかもしれない。

次世代に贈れるものを/メガワティ

メガワティ東アジアはまだ多くの問題を抱える。たとえば、テロや朝鮮半島といった問題がある。しかし、東西ドイツが統一したように、朝鮮半島の統一もいつか実現するだろう。時代には満ち潮もあれば、引き潮もあるのだから。

米国は「世界の警察官」や「ただ一つの超大国」と称されるが、各国が抱える問題を解決できるというわけではない。我々は互いに深いきずなを築き、次の世代に何を贈れるか考えていかねばならない。

国際機関におけるアジア各国の相互協力

柿沢 日本が国連安全保障理事会の常任理事国となることを支持されるか。国際機関でアジアの声を反映させることが大切ではないか。

日本の常任理入り支持/ラモス

ラモス私は大統領時代から日本の安保理入りを支持していた。また、安保理を拡大し、途上国の声を生かすべきだ。ブラジル、インドのような地域大国に加え、アジアの国々の声も反映させたい。

さらに、現在の常任理事国が持つ拒否権を再定義するよう勧告したい。192か国が加盟する国連で5か国にだけ強力な権力が集中し、たった1か国の拒否権によって、ほかの加盟国の利益が損なわれかねない。

メガワティ日本が仮に安保理の常任理事国となったならば、多くの国々の意見を反映してほしい。アジア・アフリカの大多数の国々は、注意を払われていないと感じている。

途上国支援続けて/チュアン

チュアン安保理を拡大する場合、アジアからは日本が入るべきだという意見もあったが、途上国の声を反映できる国が入るべきだという異論もあった。日本も常任理事国にふさわしいと考える。米国に次ぐ対外援助を実施し、途上国に大いに貢献している。だが、日本のライバルは増えている。日本が常任理事国にふさわしいと考える人は、かつての勢いを失っているのではないか。

私は途上国への支援を続けるという条件付きで、日本の常任理事国入りを支持する。豊かな大国でも貧しい小国でも、国連では同じ一票を持つことを忘れないでほしい。

東アジア共通の価値観

柿沢東アジア共同体へ向かうには共通の価値観が必要だが、民主主義を共通の価値観として分かち合っていけるだろうか。

  • 「東アジア共同体」 ASEAN10か国と日中韓を中心に、幅広い分野で地域協力を促進するための枠組み。2005年12月、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えて初の東アジア首脳会議が開かれ、「東アジア共同体」形成を目指す宣言採択にこぎつけた。

チュアン私は民主主義制度の中で生まれた政治家だ。父は教師、いま95歳の母は読み書きができない。私のような一市民が首相になれたのは、タイに民主主義が定着しているからこそだ。私は民主主義を重視する。ただ、民主主義制度下で不公平が生じることはある。権力を乱用し、不正に金銭を稼ぎ、それを使って選挙に勝とうとする政治家もいる。

民主主義は多くの障害を乗り越えなければならない。議員、公務員、報道機関がきちんと機能していれば、昨年のクーデターも起きなかっただろう。民主主義を守るため、国家のすべての機関が自らの役割を果たす必要がある。大きい柱も小さい柱も、家を支えなくてはならない。

経済力なしに民主化なし/金

2000年前、孟子が「恒産なくして恒心なし」と言った。恒産とは自由な生活ができるだけの経済力を意味し、恒心が民主主義だ。経済力の後ろ盾がないと民主主義の存在は難しい。韓国はこれを乗り越え、自由な民主主義国家となった。これが私の答えだ。他の話はいらない。

ラモスフィリピンでは86年2月以来、政権交代はいずれも平和裏に行われている。20年間、支配した軍事政権は権力の乱用と腐敗ゆえ、非暴力的に追い出された。2001年には汚職がはびこる政権が倒され、当時の大統領は服役中だ。

だが、植民地時代から強い影響力を持つファミリーは存在し、不愉快ではあるが、貧しい育ちの人が政府のトップに就くことは難しいのが現実だ。ただ、市民社会を見れば、環境、女性問題、人権を扱う民間活動団体(NGO)が育っている。言論の自由もある。

討論を終えて 柿沢弘治元外相「アジア版PKO期待」

写真:柿沢弘治元外相

フォーラムに参加したシニアリーダーの皆さんは大変若々しく、現役同様の問題意識をもって議論していただいた。

東アジア共同体に関しては、「共通の価値観を分かち合う国の間で初めて地域共同体というものが考えられる。アジアはその段階に至っていないのではないか」という疑問と懸念がある。

しかし、今回、参加した元首脳たちの国々を見ても、最近の経済成長に伴って各国で中産階級が拡大し、市民社会が成長してきていることは事実だと思う。その意味で、多党制の下での民主的な議会制度が確立しつつあると見ていい。

安全保障については、米国も含めたASEAN地域フォーラム(ARF)という議論の場ができており、最初は信頼醸成の話だけだったのが、予防外交というところまで進んできている。アジア太平洋の安全保障を議論する場として、定着と拡大を期待している。

個人的には、日本や中国が個別に国連の平和維持活動(PKO)に参加するのではなく、アジア版PKOができればいいと考えている。まだ実現していないが、具体的進展を望みたい。

  • 「ASEAN地域フォーラム」 アジア太平洋地域の安全保障を協議する唯一の枠組みとして94年に発足した。ASEAN10か国と日米韓露、欧州連合(EU)など26か国・機構で構成し、地域の安全保障問題について〈1〉信頼醸成〈2〉予防外交〈3〉紛争解決――の3段階で話し合う。

興奮と笑いの会場 草稿放り投げる熱弁も

東アジアの地域協力を訴える各国元首脳のメッセージに、会場を埋めた聴講者たちは熱心に聞き入った。元首脳たちのユーモアを交えた話に、笑いや大きな拍手が起こった。

鹿児島市の通信制高校生水上進司さん(22)は、将来のアジア諸国の関係に関心を持って会場に来た。金鍾泌・元韓国首相が「韓国は昨日より今日が良い社会になっている」といった点に感心し、「アジア各国の社会がそうなるように前向きに心がけていきたい」と熱っぽく語った。福岡県春日市の高校2年生藤山夏美さん(16)も「ラモス元フィリピン大統領がアジアの人は皆家族のようなものだと呼びかけたことが印象に残った」と興奮気味だった。

そのラモス元大統領が演説途中、用意した演説草稿を空中に放り投げ、「私は若い人々に直接話しかけたいんだ」といった時には、会場がどよめき、拍手が鳴りやまない一幕もあった。

元首脳がそろって平和的共存を訴えたことについて、福岡県苅田町の無職玉江照文さん(74)は「どの国も平和を重んじていることが分かった」と感じ入った様子。立命館アジア太平洋大大学院(大分県別府市)のバングラデシュ人留学生ソヘル・アジャドさん(32)は「アジアが実際に共に発展できるようにシニアリーダーたちにはさらに努力してほしい」と注文した。

フォーラム総括の要旨
1)平等、友好協力、相互信頼、互譲互恵、民主主義、人権尊重の精神を基礎に、東アジアの長期的な安定と繁栄の実現に努める。
2)通商、環境、エネルギー、テロ対策など様々な分野の地域協力を重層的、一体的に強化し、東アジア共同体の創造を目指す。共同体構築は共に育(はぐく)むべき未来への共通理念である。
3)2国間及び多国間の自由貿易、経済連携協定ネットワークを基盤に、経済連携機構の創設を目指す。
4)地域秩序構築のため、中国が責任ある役割を担おうとする努力を高く評価し、08年北京五輪、10年上海万博に協力する。
5)東アジア地域の安全保障で日米、韓米の同盟およびASEAN諸国と米国の安保協力が基盤的役割を果たす現実を認識し、ASEAN地域フォーラム(ARF)の機能を充実強化、より幅広い安全保障ネットワーク構築を期待する。
6)北朝鮮は瀬戸際外交をやめ、中国、韓国の発展に学び、自立を図るべきである。
7)東アジア地域の安定と東アジア共同体構築には日韓中の緊密な関係が重要であり、3か国の定期首脳会議の意義を評価する。
8)各国政府指導者は国際協調と相互理解を基調とする健全な市民社会を目指すべきだ。
9)域内格差縮小のため、比較的発展した国がそうでない国に対し、共同で支援する特別な地域枠組みの構築が重要だ。
10)国連ほか国際金融機関の改革を進め、アジアのプレゼンスを適切に反映させるべきだ。

(2007年4月11日 読売新聞)