第18回(2017年度)読売・吉野作造賞篠田英朗氏「集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保」

憲法9条との整合性議論 問い直す

第18回「読売・吉野作造賞」の受賞作は、東京外国語大学教授・篠田英朗氏の著書「集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保」(風行社)に決まりました。正賞の文箱と副賞300万円を贈ります。

同賞は昨年中に発表された著作や論文を対象とし、選考委員会の厳正な審議で決定しました。受賞作は、集団的自衛権と憲法9条との整合性に関する論議を、憲法の国際協調主義を重視する立場から問い直した力作です。贈賞式は7月18日、東京・丸の内のパレスホテル東京で開催しました。

写真:篠田英朗氏
篠田英朗(しのだ・ひであき)氏
1968年生まれ。神奈川県出身。ロンドン大学大学院修了。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。専攻は国際政治学。

選評:集団的自衛権 明快に

 篠田氏の作品は、日本国憲法における集団的自衛権の問題を歴史と思想史の文脈のなかで明快に論じた点が高く評価された。

日本の国家体制が、憲法9条と日米安保体制という2本の柱から成る点を手際よく整理し、最善ではないものの、ひとつの妥当性を持つ体制として受け入れざるをえないことを示した論旨は説得力を持つ。

個別的自衛権は「必要にして最低限」のものであれば合憲だという通説も、日米安保条約の集団的安全保障があってはじめて成立すると篠田氏は指摘する。憲法9条の仕組みは、日米安保体制の裏付けがあるからこそ運用可能だという点に注目するのだ。

「思想史」とタイトルにあるように、本書は日本の憲法学説の固有の歴史にも言及した。本来は国際法上の概念である自衛権について「国内社会における自然人」と「国際社会における国家」との類比関係で捉える論理が、国家概念のなかの「他国と関係を持つ能力」という要素を弱めたとの指摘も重要だ。

先般の安保法制の論議で曖昧なまま残された国際協調主義の問題を再考する上でも、貴重な一石を投じた力作だと評価できる。(選考委員 猪木武徳)

(2017年08月18日 読売新聞)