第19回(2018年度)読売・吉野作造賞読売・吉野作造賞2018 深井智朗氏「プロテスタンティズム」

プロテスタンティズムの多大な影響を解き明かす

第19回「読売・吉野作造賞」の受賞作は、東洋英和女学院院長・深井智朗氏の著書「プロテスタンティズム」(中公新書)に決まりました。

同賞は昨年中に発表された著作、雑誌論文を対象とし、選考委員会の厳正な審議により決定しました。受賞作は、16世紀の宗教改革から始まったプロテスタンティズムの変遷を的確に論じ、現代世界の政治や文化に多大な影響を与えていることを解き明かした力作です。贈賞式は7月17日、東京・丸の内のパレスホテル東京で行われ、正賞の文箱と副賞300万円が贈られました。

写真:深井智朗氏
深井智朗(ふかい・ともあき)氏
1964年生まれ。埼玉県出身。独アウクスブルク大学博士課程修了。東洋英和女学院院長。専門は近代ドイツ宗教思想史。

選評:宗教と米国 「意識されざる」関係

 本書は現代の政治にも色濃く影を落とす宗教の力を、宗教改革の歴史をベースに語った秀作である。米国のように、宗教が「意図されざる国教」として影響力を発揮している点を示す手際は鮮やかだ。

 著者はまず、ルターの改革が個人の信仰を国家(領主)から解放しなかった点を確認、さらにルターの後で改革を推し進めた、(再)洗礼派などの「新プロテスタンティズム」が、近代の自由思想、人権、抵抗権、良心の自由、デモクラシーの形成に寄与したと指摘する。

 アメリカ大陸に渡った「新プロテスタンティズム」が、信徒獲得の市場競争を推進し、現世での経済的成功というアメリカン・ドリームを生み出して、米国社会を「国家嫌い」にしたとする見方は重要だろう。

 だがアメリカにも「意識されざる国教」がある。深井氏は、その神の実体はナショナリズムであり、その大祭司は大統領だと見ている。米国の一国主義は、この「意識されざる国教」の姿だと捉える。読者はここで改めて現代政治と宗教の根深い関係に気づかされる。

 巻末で言及される「共生の作法の提示」は、文明社会にとって緊要の探求課題なのだと教えられる。(猪木武徳)

(2018年08月08日 読売新聞)