第15回(2014年度)読売・吉野作造賞遠藤乾(けん)氏「統合の終焉 EUの実像と論理」

第15回「読売・吉野作造賞」の受賞作は、北海道大学教授・遠藤乾氏の著書「統合の終焉 EUの実像と論理」(岩波書店)に決まりました。正賞の文箱と副賞300万円を贈ります。

同賞は昨年中に発表された著作、雑誌論文を対象とし、選考委員会の厳正な審議により決定しました。受賞作は、EU(欧州連合)の歴史や政策、さらには思想にまで踏み込み、その実像を多面的に描き出した力作です。

写真:遠藤乾氏
遠藤乾(えんどう・けん)氏
1966年生まれ。東京都出身。英オックスフォード大学政治学博士号取得。北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院教授。専攻は国際政治学。

選評:EUの試行錯誤 跡付け

シャルルマーニュからマーストリヒト条約までの1200年のヨーロッパ統合の歴史は、決して平坦(へいたん)な道ではなかった。国民国家に始めがあったからには、その終わりの日、「統合の日」がいつか来ることは確かであろう。しかしそれはどれほど先のことなのか。

本書の価値は、未来の可能な国家像を模索しつつ、EUの壮大なる試行錯誤を歴史的かつ具体的に跡付けたところにある。著者が20年あまりにわたり追い続けた問題への答案と言えよう。

モネ、ドロール、サッチャーの政治姿勢に光を当てながら、冷戦が欧州統合に及ぼした影響、欧州の米国への対抗意識、英仏のライバル関係をも視野に入れつつ、一進一退の統合過程をたどる遠藤氏の文章はきわめて明快だ。

国家主権を地域、メンバー国、連邦政府と序列をつけつつ分割する「補完性の原理」を、どのように貫徹させるのか。ユーロ導入後の財政・金融政策のデザインの仕方についての合意は可能なのか。残された問題も大きい。

現代日本の地方分権問題や、夢想とされる「東アジア共同体」に関しても示唆するところは多い。(猪木武徳)

(2014年06月10日 読売新聞)