第14回(2013年度)読売・吉野作造賞秋田茂氏「イギリス帝国の歴史」

第14回「読売・吉野作造賞」の受賞作は、大阪大学文学研究科教授・秋田茂氏の著書「イギリス帝国の歴史」(中央公論新社)に決まりました。正賞の文箱と副賞300万円を贈ります。

同賞は昨年4月から今年3月までに発表された著作、雑誌論文を対象とし、選考委員会の厳正な審議により決定しました。受賞作は、グローバルヒストリーの最新の研究成果を踏まえて、イギリス帝国の形成と発展、解体の過程を、緻密かつコンパクトにまとめた意欲作です。

写真:秋田茂氏
秋田茂(あきた・しげる)氏
1958年生まれ。広島県出身。広島大学大学院文学研究科・博士後期課程西洋史学専攻中退。現在、大阪大学大学院文学研究科世界史講座教授。

選評:新しい世界史への挑戦

グローバル化の時代にふさわしい歴史書である。18世紀から20世紀までの大英帝国の歴史を構造的に分析しながら、グローバルヒストリーという新分野に挑戦した。各国史の総和としての世界史でもなければ、マルクス主義の枠組みに依拠した全体史でもない。グローバルヒストリーは、イギリス植民地の広がりを手がかりに、世界の諸地域のつながり、関係性を重視する新しい世界史を描く試みにほかならない。

著者はとりあえず、インドを軸にしたヘゲモニー国家イギリスの役割を重視する。大英帝国を知ることは、現代「アメリカ帝国」の意義を理解する点にもつながり、一時話題になった「帝国とは何か」という一般的議論への貢献にもなる。著者は、国際政治や国際関係論の学者による歴史的実態の軽視や理論的な枠組みの「空中戦」に警告を発する。

昨今の論壇で待たれていたのは、史料を本格的に読み込みながら現代の論点を指摘するスケールの大きな歴史学者の出現である。受賞を機に秋田氏が、グローバル化時代の世界史像のあり方にも知的な挑戦を試み、論壇や現代を扱う社会科学者に刺激を与えることを期待したい。(選考委員会座長・山内昌之)

(2013年06月05日 読売新聞)