第13回(2012年度)読売・吉野作造賞竹内洋氏「革新幻想の戦後史」

第13回「読売・吉野作造賞」の受賞作は、関西大学東京センター長・竹内洋氏の著書「革新幻想の戦後史」(中央公論新社)に決まりました。正賞の文箱と副賞300万円を贈ります。

同賞は昨年4月から今年3月までに発表された単行本、雑誌論文を対象とし、選考委員会の厳正な審議により決定しました。竹内氏の受賞作は、革新勢力に席巻された戦後社会の実相に、膨大な文献資料や聴き取り調査によって肉薄した労作です。

贈賞式は7月10日午後6時から、東京・丸の内のパレスホテル東京で行われました。

写真:竹内洋氏
竹内洋(たけうち・よう)氏
1942年生まれ。新潟県出身。関西大学東京センター長。関西大学、京都大学の各名誉教授。京都大学大学院博士課程修了。専攻は歴史社会学、教育社会学。

選評:複雑な戦後論壇 分析

本書は日本の戦後史が、単純な保守と革新の対立図式では要約できない複雑な構造を持つことを巧みな語り口で明らかにしている。

戦後論壇を一時活性化させた左派インテリの「二度と戦争を起こすまいという侵略戦争への悔恨共同体」が、多くの日本人が終戦直後に抱いた敗戦感情の複雑さを隠蔽し、戦闘体験のない若いインテリの間に革新幻想を広めたと指摘する。

当時の論壇の主役級と目された論客が、いかに時代の雰囲気を作り上げ、メディアがどのようにしてその舞台を準備したのか。いくつかの「事件」を取り上げつつ複雑な論壇の様相を、様々な文書資料と聴き取りによって示した力量は高く評価できる。

肩の力を抜いた著者の率直さは、ときにユーモアをまじえ読む者を飽かすことがない。本書は過去の問題だけを語っているのではない。権力と自己顕示を好むものにとって、「思想」と「情念」は区別されているのか、現代のわれわれは情念以上の知的構築物を見いだしているのかを問うているのである。(選考委員会座長・猪木武徳)

(2012年06月09日 読売新聞)