第7回(2006年度)読売・吉野作造賞長谷川毅氏「暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏」

第7回「読売・吉野作造賞」の受賞作は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校歴史学部教授・長谷川毅氏の著書『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』(中央公論新社刊)に決まりました。正賞の文箱と副賞300万円を贈ります。

同賞は、読売論壇賞と中央公論新社の吉野作造賞を一本化して2000年に創設されました。今回は昨年4月から今年3月までに発表された単行本、雑誌論文を対象とし、選考委員会の厳正な審議により決定しました。長谷川氏の受賞作は、1945年4月から9月までの太平洋戦争終結の全体像を、アメリカ、ソ連、日本をめぐる外交・軍事関係を中心に豊富な資料を駆使して緻密(ちみつ)に分析し解き明かした研究書です。

選考委員は、座長・宮崎勇(大和総研名誉顧問)、三浦朱門(作家)、木村尚三郎(東京大学名誉教授)、山崎正和(劇作家)、猪木武徳(国際日本文化研究センター教授)、北岡伸一(国連大使)=欠席、書面にて参加、滝鼻卓雄(読売新聞東京本社社長・編集主幹)の各氏。

写真:長谷川毅氏
長谷川毅(はせがわ・つよし)氏
1941年東京都生まれ。カリフォルニア大学サンタバーバラ校歴史学部教授(同大学冷戦研究センター長を兼任)。65年東京大学教養学部教養学科卒業。米国ワシントン大学で博士号取得。76年米国国籍を取得。北海道大学スラブ研究センター教授を経て、91年から現職。専攻はロシア史、日露関係。著書に『ロシア革命下ペトログラードの市民生活』(中公新書)、『北方領土問題と日露関係』(筑摩書房)など。

選評:戦争責任検証への重要資料

第7回「読売・吉野作造賞」は長谷川毅氏の『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』に決まった。

賞の選考基準は、読売新聞社の「責任ある自由・人間主義・国際主義」の3信条と、大正デモクラシーの旗手・吉野作造博士の「民本主義・新自由主義・国際善隣友好」の3理念であり、私はそれに読売新聞の社論「道徳と愛情の復活。戦争責任の検証」の2本柱をつけ加えた。

長谷川氏の受賞作は、太平洋戦争におけるアメリカとソ連の行動と日本の降伏に至る経緯を、ロシアの新しい文献をも参考にしながら、国際的文脈の中でとらえている。従来、アメリカの歴史家は「原爆投下」に、ロシアの歴史家は「対日参戦」に焦点をあて、日本では天皇周辺、陸海軍、政府、官僚(外務省)などの降伏条件の対応に焦点をあてながら個別的に語られてきた。

著者はそれらを、米ソそれぞれの政治的外交的「時刻表」に沿ったものとして、その野望と駆け引きを立体的に描いている。米ソは対日戦争で「日本降伏」を共通の目標にしたが、実際はそれぞれの支配地域の拡大、既得権益の増強、戦後の発言力の強化を第一義的に考えて行動した。その行動は、黒い「時刻表」に沿ったものであった。

日本は戦争責任の問題を曖昧(あいまい)にしたまま「寛大な措置」を求め続けた。戦争終結で“平和”を取り戻したが、そのドラマは複雑で冷酷だったと語っている。本書は戦争責任を検証するための一つの重要資料にもなっている。一読を勧めたい。(選考委員会座長・宮崎勇)

(2006年06月09日 読売新聞)