第5回(2004年度)読売・吉野作造賞古田博司氏「東アジア・イデオロギーを超えて」

第5回「読売・吉野作造賞」の受賞作は、筑波大学人文社会科学研究科教授・古田博司氏の著書『東アジア・イデオロギーを超えて』(新書館刊)に決まりました。正賞の文箱と副賞300万円を贈ります。

同賞は、読売論壇賞と中央公論新社の吉野作造賞を一本化して2000年に創設されました。今回は昨年4月から今年3月までに発表された単行本、雑誌論文を対象とし、選考委員会の厳正な審議により決定しました。古田氏の受賞作は、東アジアの思想的文化的基盤を、儒教を副次的要素とする中華思想の分有ととらえるものの、それを自然な連帯の条件というのは幻想であり、むしろ阻害要因となっていると説く評論集です。

選考委員は、座長・宮崎勇(大和総研名誉顧問)、三浦朱門(作家)、木村尚三郎(東京大学名誉教授)、山崎正和(劇作家)、猪木武徳(国際日本文化研究センター教授)、北岡伸一(国連大使)=欠席、書面にて参加、滝鼻卓雄(読売新聞東京本社社長・編集主幹)の各氏。

写真:古田博司氏
古田博司(ふるた・ひろし)氏
1953年横浜市生まれ。筑波大学人文社会科学研究科教授。1976年慶応義塾大学文学部卒業。同大学院文学研究科史学専攻東洋史修士課程修了。韓国ソウル大学大学院留学、筑波大学社会科学系助教授などを経て現職(六月末まで米ハワイ大学朝鮮研究所客員研究員)。法学博士。専攻は東アジア政治思想。著書に『朝鮮民族を読み解く』『悲しみに笑う韓国人』『東アジアの思想風景』(サントリー学芸賞受賞)など。

選評:東アジア連帯考える視点提示

第5回「読売・吉野作造賞」は、古田博司氏の『東アジア・イデオロギーを超えて』に決定した。

日本で高度成長が続き、アジアでNIES(新興工業国・地域群)の興隆が始まったころ、それは「儒教文化圏」の経済的側面の表れだという見方が広がった。しかし、その見方は何となく影が薄くなった。

それはなぜか。古田氏は東アジアの「包括性」は儒教そのものでなく、儒教を副次的要素とする「中華思想の分有である」という。氏は中国、韓国、北朝鮮、ベトナム、日本の儒教の受容ぶりは多様であり、その上でそれぞれが自国(自民族)を世界の中心(盟主)であると考え、周辺地域に対して「優越感」を持つという「中華思想を分有」していた。そのことがこの地域の「連帯性」の阻害要因になっていた、と指摘する。今日的意義のある主張である。

いま米国の単独主義、欧州統合の拡大と深化、さらにはプーチン・ロシアの大国志向の中で、東アジアの明日が注目されている。そして、市場経済の国際化の下で日本、中国、韓国の経済協調と連帯がどうなるかが問われている。日朝の国交正常化問題もある。古田論文はそれらに具体的には答えていないが、問題に取り組むに当たっての基本的視点を示唆している。しかも、それは歴史的実証的に、そして氏が「尊崇する文学」性をもって書かれている。労作である。(選考委員会座長・宮崎勇)

(2004年06月10日 読売新聞)