読売国際会議2017「グローバリズムの危機を越えて――日本再生の道」10月フォーラム「新たなる北朝鮮の脅威と日米同盟」

対北 日米関係が基盤

読売国際会議2017「グローバリズムの危機を越えて――日本再生の道」のフォーラム「新たなる北朝鮮の脅威と日米同盟」(読売国際経済懇話会=YIES、読売新聞社共催)が10月18日、東京・永田町の海運クラブで開かれた。緊迫の度合いを増す北朝鮮情勢の展望や対応策について、内外の有識者3氏が討論し、約370人が熱心に耳を傾けた。

パネリスト(順不同)
ウェンディー・シャーマン 元米国務次官(政治担当)
藤崎一郎 前駐米大使
香田洋二 元自衛艦隊司令官
コーディネーター
大内佐紀 読売新聞調査研究本部主任研究員

冒頭発言 ウェンディー・シャーマン氏「米、同盟国と連携示せ」

写真:ウェンディー・シャーマン氏
Wendy Ruth Sherman


1993~96年国務次官補(議会担当)、97~2001年国務省顧問。00~01年はクリントン大統領特別顧問と北朝鮮政策調整官を兼務。11~15年はオバマ政権の国務次官としてイラン核問題などを担当した。

北朝鮮は核弾頭搭載可能な長距離弾道ミサイルの獲得を真剣に目指している。実現時期については1年から4年まで諸説あるが、彼らはいずれは入手する。

北朝鮮は、「米国を抑止するには自ら核兵器を保有するしかない」と、リビアの元最高指導者カダフィ氏やイラクのフセイン元大統領の末路を見て確信した。

日米韓は一丸となって北朝鮮に臨む必要があり、日韓関係の改善が重要だ。

北東アジア諸国には、「米国は本土に攻撃が及ぶ事態にのみ反応するのではないか」「アジアの同盟国が危険にさらされても真剣に動かないのでは」との懸念がある。この誤解を正すのに、トランプ米大統領が11月に日韓などアジアを歴訪するのは効果的だろう。米国は同盟国と共にあることを示さなければならない。

北朝鮮問題では、道具箱の中にある、すべての道具を使わなければならない。ミサイル防衛、軍事演習などを外交の後ろ盾とし、経済制裁、諜報(ちょうほう)活動、サイバー攻撃も適宜、駆使し、組み合わせる。

現時点では、制裁に力点が置かれているが、制裁をもって金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の行動を変えることはできない。制裁は相手を交渉のテーブルに着かせる圧力にはなるが、問題そのものは解決できない。

トランプ氏がイラン核合意を破棄する可能性に言及したことは北朝鮮情勢にも影響する。米国は、多国間の合意をも一方的に破る、信用できない国だというメッセージを送るからだ。

米朝いずれも、核による先制攻撃をしたいとは思っていない。トランプ大統領の周辺には、ケリー首席補佐官ら北朝鮮への軍事力行使がもたらす破滅的な結果を熟知する元制服組幹部が多い。恐ろしいのは、偶発事態や誤算が起きることだ。これを回避するためにも、対話のチャンネルを開けておくことは大事だ。

冒頭発言 藤崎一郎氏「制裁強める大事な時」

写真:藤崎一郎氏
ふじさき・いちろう


1947年神奈川県生まれ。69年外務省入省、北米局長、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使などを経て、2008年から12年まで駐米大使。現在、日米協会会長。

私は、北朝鮮に関する「四つのノー」「四つの間違い」を申し上げたい。

まず「米国が軍事手段を使うと困る」と日本が言うのは間違いだ。「金正恩(キムジョンウン)(朝鮮労働党委員長)対トランプ(米大統領)」ではなく、本質は「国際社会対金正恩」であることを見失ってはならない。

今はチキンゲームの最中だ。「しっかり守る」と言う米国に、同盟国が「軍事手段は困ります」と声高に言えば、喜ぶのは金正恩だ。我々は、じっと我慢の子である時だ。

第二に、北朝鮮が米国と交渉したがっていると思うと、大変な過ちを犯す。約束を一切守らない国が米国の約束を信じて武装解除するとは考えにくい。

ただ、北朝鮮も自分たちが米国などを攻撃すればおしまいだと知っている。今は時間稼ぎをしながら軍備増強を続けている。そこをどう抑えるかだ。

三つ目の間違いは、「もうここまで来たら、北朝鮮を核保有国と認めるのが現実的ではないか」という議論だ。核拡散防止条約(NPT)上、核保有国と正式に認められれば、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けない立場になる。

国連安全保障理事会の決議に9回も違反した国を認めれば、今後は誰も国際社会の規範などに従わない。やり得になってしまう。

四つ目の間違いは、「制裁は効かない」という議論だ。9月の安保理決議で初めて石油と石油製品に手が着き、意味ある制裁が始まった。中国も(制裁履行に)本腰が入ってきた。世界中で北朝鮮大使の国外追放や制裁強化の方向が強く出ている。北朝鮮の貿易の9割を占める中国がしっかりやる限り、相当の効果がある。

今が勝負所だ。全ての選択肢がテーブルの上にあると言いつつ、制裁を強める大事な時だ。日本は今まで以上に強い立場にある。

冒頭発言 香田洋二氏「対話と圧力にも限界」

写真:香田洋二氏
こうだ・ようじ


1949年徳島県生まれ。72年防衛大卒。海上自衛隊で護衛艦隊司令官、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官などを歴任。2008年に退官後、米ハーバード大上席研究員などを務めた。

北朝鮮の核弾頭はミサイルに搭載できるレベルに近づいており、弾道ミサイルの世代交代も進む。北朝鮮は効果的にミサイル部隊を運用する態勢を作っている。

1994年に米国のクリントン政権が北朝鮮への攻撃を見送って以来、国際社会は、北朝鮮に対して対話と圧力を併用してきた。これは北朝鮮の核・ミサイル開発のスピードを遅らせたかもしれないが、核を放棄させることには失敗した。北朝鮮の核・ミサイル開発が加速化する中、国際的な努力をいかに機能させるかが課題だが、対話と圧力にも限界がある。

北朝鮮は、グアムにミサイルを撃つなど、米国を刺激することはできないだろう。だが、日本上空にミサイルを飛ばす可能性はある。新型ミサイルや小型軽量化した核の実験もあり得る。こうした北朝鮮の行動に我々がどう備えるかも課題だ。

「木を見て森を見ず」ということわざがあるが、北朝鮮問題では「木を見て森も見る」ことが必要だ。「木」とは北朝鮮の核・ミサイル開発で、この現状をしっかり把握しなければならない。「森を見る」とは、北朝鮮情勢を人類全体への挑戦と捉えることだ。

国際社会が北朝鮮を核保有国と認めれば、核は世界に拡散する。これを国際社会が統制できなくなれば、人類は地獄を見る。止めるのは今しかない。

今、世界でこの流れを軍事的に止める意図と能力を持っているのは米国だけだ。仮に米国が交渉を諦め、軍事行動を取った場合、日本はどうするのか。米国の同盟国として「I’m with you」と言うのが日本に求められることではないか。

米国の軍事行動には同調しないという選択肢もあるが、それは日本国民が決めることだ。だが、それが日米安保体制にどういう影響を与えるか、しっかりと考える必要がある。

パネル討論 中国交えた議論を シャーマン氏/拉致問題発信 トランプ氏に期待 藤崎氏/サイバー攻撃 対策必要 香田氏

◇軍事行動?

――北朝鮮情勢の切迫度をどう見るか。

香田氏北朝鮮はまだ、大陸間弾道弾(ICBM)と核の小型化を完成しておらず、現状は(米国が軍事行動に踏み切る)「レッドライン」ではないと思う。米国は、いざとなれば北朝鮮を軍事的に一蹴(いっしゅう)できるからだ。ただ、これを変えるのが核とICBMの開発状況だ。この二つの完成が迫り、交渉が成立しないと判断した時点で軍事オプションの可能性が出てくる。

シャーマン氏国連安保理決議などに基づく経済制裁をより厳格に履行するためにも、北朝鮮が崩壊した場合にどう対処するのか中国を交えて議論することが重要だ。中国は北朝鮮情勢に様々な懸念を抱いている。トランプ米大統領が、従来の方法で北朝鮮を止められないと考えるようになれば、軍事行動の可能性が高まるだろう。

藤崎氏北朝鮮は米中両国以外に耳を傾けない。北朝鮮問題を解決するには米中に本腰を入れてもらうしかない。このうち米国は今、北朝鮮問題に本格的に取り組み始めており、これにより、逆説的に日本の安全保障環境は向上したとも言える。ただ、米中国交回復など、過去には日本が米国に置き去りにされた例があり、日本抜きで物事が進まないように米国と連携することが必要だ。

◇決め手なき処方箋

――具体的な処方箋は。

藤崎氏選択肢を突き詰めると、即座に軍事攻撃することも、北朝鮮問題を放置することも選ぶことはできず、軍事的手段をちらつかせつつ制裁を強めるというこれまでの方法しかないだろう。

香田氏日米同盟の信頼感は極めて高く、軍事的には在来戦力で北朝鮮を抑止できる。日本が気をつけるべきは実はミサイル攻撃よりサイバー攻撃だ。北朝鮮は犯行を認めないから国際社会は非難のしようもない。日米安保が必ずしも機能しない分野について、対策を考えていくべきだ。

シャーマン氏日米両国は(非常時の対応を)迅速かつ円滑に行うためにも、強固な日米関係を基に、互いの行動を明確に予測できるようにする必要がある。米国が、現在持っている軍事作戦案を同盟国との間で定期的に見直していくことは極めて重要だ。

◇交渉望まぬ北朝鮮

――北朝鮮との外交交渉をどう進めるべきか。

藤崎氏「北朝鮮は水を飲みたがっている」、つまり「交渉したがっている」と解説する人がいるが、間違いだ。何とか水飲み場に連れて行き、脅したり、すかしたりして水を飲んでもらわなければいけない。そのための解決策としては、軍事的手段を否定せずに、制裁を強めるしかない。

写真:フォーラムの様子
討論に聞き入るフォーラムの聴講者たち(海運クラブで)

シャーマン氏北朝鮮と真剣に対話したり、交渉したりするにはまだ機が熟していない。外交手段の一環として軍事的圧力や経済制裁、情報戦を含め、世界を巻き込んだ包括的な取り組みが必要だ。大事なことは、まずは北朝鮮を交渉のテーブルに着かせることだ。

香田氏北朝鮮に対する軍事的圧力で効果があった前例が一つだけある。1994年、当時のクリントン米大統領は北朝鮮の核開発の芽を摘むため、対北空爆と合わせ約6万人の米兵を派兵する計画を立てた。

 その直後、カーター元大統領が訪朝し、米国の真意を北朝鮮側に伝えた。金日成(キムイルソン)主席は朝鮮戦争の経験があるので、どの程度の被害が自国に及ぶかを悟り、ぎりぎりのところで交渉(米朝枠組み合意)が成立、一触即発の事態が回避された。話し合いで戦争が回避されたまれな例だ。

シャーマン氏確かに米国は当時、軍事攻撃を考えていた。金日成氏が死ななければ北朝鮮は今とは別の道に進んだ可能性もあったが、後継者の金正日(キムジョンイル)総書記は父親と同じ考えを持たなかった。クリントン時代の政策は、ブッシュ政権ではうまく引き継がれず、この間、北朝鮮は秘密裏にウラン濃縮を再開し、核兵器を保有するに至り、当時よりもっと難しい状況が生まれてしまった。

◇核保有国と認めない

――仮に米朝交渉が始まった場合、日本として「これをやられては困る」ということは何か。

藤崎氏米国を射程に入れないが、日本には届くミサイルが量産されるといった状態のままで、ミサイルや核開発を凍結させるといった中途半端な取引を性急にされては困る。これは日本の安全保障に直結する問題だけに、米国との緊密な連携が必要だ。

――米国内には、北朝鮮を核保有国として認めた上で、核拡散を凍結するという主張もある。

シャーマン氏現実問題として北朝鮮は核兵器を保有している。だが、北朝鮮を核保有国として認めるべきではない。そんなことをすれば、他の国にも核が拡散しかねない。仮に核開発の凍結を交渉するということがあっても、それはあくまでも中間的な措置で、最終目的は北朝鮮の非核化でなければならない。

香田氏日本の立場としても、北朝鮮の核保有を断じて認めるべきではない。米国は中途半端な取引をしないはずだ。第2次大戦後、米国が世界で影響力を行使できた背景には、様々な同盟関係がある。中でも6万5000の兵力を誇る在日米軍はペルシャ湾から日本海までの安全保障を担う要だ。日米安保は米国の国益そのもので、米国がこれを失うリスクを冒して北朝鮮を放置しておくわけがない。

写真:コーディネーター 大内佐紀
コーディネーター 大内佐紀

◇訪日時のメッセージ

――トランプ米大統領来日時の日米首脳会談(11月6日)で、どのようなメッセージが出されると効果的か。

シャーマン氏日米が互いに協力するというメッセージが出るのは疑いない。日米同盟は相互の安全保障に必要不可欠で、韓国など地域の国々と協力し、中国とも協議しながら解決していこうということになろう。北朝鮮問題に対し、日米同盟は最も優先順位が高い「道具」だ。

藤崎氏米大統領が拉致問題について、「この問題を忘れていない」と日本から世界に発信してもらうことを期待している。

香田氏北朝鮮は日米を分断したがっている。在日米軍基地や東京を攻撃すると言うのは、日米分断が狙いだ。首脳会談からしっかりとしたメッセージが出てくることは、北朝鮮にとっては米空母を近海に展開される以上にやってほしくないことだ。

◇ツイッター外交

――トランプ氏はツイッターなどで軍事行動を示唆している。

香田氏トランプ氏のツイッターでのメッセージは、金正恩氏に直接届いているかもしれない。これまで北朝鮮の指導者は、正確な情報が上がって来ないために「米国は北朝鮮に恐れおののいている」と思ってきた可能性がある。だが、「米国は恐れているのではなく怒っている」と分かってきたのではないか。

シャーマン氏トランプ氏のツイッターの内容がエスカレートするのは困る。今は非常に難しい時期で、首尾一貫した政策を取ることが重要だ。

藤崎氏金正恩氏には合理性と非合理性の両面がある。核武装することも、親族を排除することも、彼の立場からみれば合理的ではある。一方、ここまで米国を挑発するのは非合理的だ。

シャーマン氏北朝鮮には北朝鮮なりのシステムがある。狂って見える行動も、それなりの方法論から来ている。

――北朝鮮が再びミサイル発射や核実験をする可能性をどう見るか。

香田氏やるかもしれないが、米国は反応しないだろう。北朝鮮が子犬だとすれば、米国は巨大なハイイログマだ。米国がそれをもって、「北朝鮮は交渉できない相手だ」と思うことの方が怖い。

◎当初、パネリストとして参加予定だった岸田文雄・自民党政調会長は解散・総選挙のため欠席となりました。

(2017年10月27日 読売新聞)