読売国際会議2020「世界秩序の再生とイノベーション」春季フォーラムコロナ経済危機とデジタル革命

「コロナ後」新社会の創生

読売新聞と読売国際経済懇話会(YIES)は5月18日、読売国際会議2020春季フォーラム「コロナ経済危機とデジタル革命」をオンラインで配信した。年間テーマ「世界秩序の再生とイノベーション」を踏まえ、自民党の甘利明税制調査会長ら有識者3人が新型コロナウイルスの混乱からいかに日本経済・社会を脱却させ、「コロナ後」の時代に進むかなどについて討論した。(文中敬称略)

パネリスト(順不同)
甘利明 自民党税制調査会長
高橋進 日本総合研究所チェアマン・エメリタス
川本裕子 早稲田大学教授
コーディネーター
黒川茂樹 読売新聞調査研究本部主任研究員

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冒頭発言 甘利明氏「官民で備え 耐性高く」

写真:甘利明氏
甘利明氏


慶大法卒。ソニー勤務を経て、1983年衆院選で初当選。経済産業相、経済再生相、TPP(環太平洋経済連携協定)担当相などを歴任した。2019年9月から現職。自民党ルール形成戦略議員連盟の会長を務めるなど経済安全保障にも詳しい。70歳。

新型コロナウイルスのような危機は周期的にやってくると覚悟した方がいい。現代社会が持つ脆弱(ぜいじゃく)性を洗い出し、今後に備えなければならない。

「コロナ後」で大事なのは、社会をコロナ前の状態に戻すのではなく、進化させることだ。これは経済や社会活動をサイバー空間に移すことにもなる。デジタル化によって産業構造を転換し、耐性の高い社会を創造することが大事だ。

危機が周期的となれば、民間経済は打撃を受け、国家はパンクしてしまう。このため、危機に備える「準備金」制度を作り、税制対応するなど、官民がリスク分散する仕組みが必要だ。

世界に先駆けて経済が回復しつつある中国の国有企業やファンドが、体力の落ちた先進国企業を傘下に入れようとするとの懸念が出ている。デジタル化が進む中、自由と民主主義、法の支配という価値観を共有する西側諸国の連携をどう再構築するか。「コロナ後」の、新たなブレトンウッズ体制をいかに構築するかが課題だ。

日本は機微技術の漏えい防止策が確立していない。日本と組めば機微なデータや情報が全部、流出しかねないという不安を同盟国に与えてはならない。

現代社会において経済と安全保障は一体化している。サイバーテロ対策や、信頼に足る人だけが機微技術に接することができる「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を作らなければならない。

「コロナの惨禍が次の進化につながった」と歴史を振り返って思えるようにしなければならない。

冒頭発言 高橋進氏「世界の構造変化加速」

写真:高橋進氏
たかはし すすむ


1976年一橋大経卒。住友銀行(現三井住友銀行)を経て、日本総合研究所。2005年から2年間、内閣府政策統括官を務め、19年1月まで政府の経済財政諮問会議の民間議員として活動。現在も政府の規制改革推進会議などの委員を務める。67歳。

今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は2四半期連続のマイナス成長となった。インバウンド(訪日客)需要がなくなり、輸出が急減し、外出自粛で国内消費も落ちた。4~6月期も、リーマン・ショックを超える戦後最悪の落ち込みとなりかねない。

大きな痛手を受けているのは飲食や宿泊、小売り、サービス、交通、不動産などで、製造業も受注が落ちている。日本も今後、雇用に影響が出てくるだろう。

経済が回復するとしても、良くて(緩やかな)「U字型」、下手をすると、コロナウイルスの2次、3次の感染拡大でジグザグの「W字型」になるのではないか。

世界各国でGDPの10%以上が蒸発する衝撃は甚大だ。政府は財政・金融政策から構造改革までマクロ政策を総動員するべきだ。

感染症対策から始めて、大打撃を受けた中小企業の破綻を防ぐための資金繰り支援や大企業を含めた金融不安の種の封じ込め、労働者支援も必要だ。需要を生み出す新たな成長戦略も求められる。

世界で起きている構造変化は加速する。世界は元には戻らないという前提で日本も対応を考えなければならない。一つはデジタル化の加速だ。例えばソーシャル・ディスタンス(社会的距離)やサービスの非接触化はデジタル化につながる。日本は世界に追いつく必要がある。

反グローバル化も加速する。当面は人の往来が減少し、国内回帰が起きる。自国第一主義が広がる危険もある。米国の同盟国としての日本の地位は不変だが、米中摩擦が激化する中、中国とどう向き合うのか、真剣に考えなければいけない。

冒頭発言 川本裕子氏「政府への信頼感カギ」

写真:川本裕子氏
かわもと ゆうこ


1982年東大文卒。東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行後、86年に渡英し、オックスフォード大大学院開発経済学修士課程修了。マッキンゼー東京支社、パリ支社勤務などを経て現職。専門は金融機関の経営や企業統治。

今回の危機は世界各国が内向きになる中で発生し、分断を加速した。米中両国に次ぐ経済規模を持つ日本の役割は一層重要になる。

コロナウイルス第2波の可能性はゼロにはできない。情報を素早く把握し、感染拡大を最小化し、感染者に十分な医療を提供できるかがカギを握る。これは保健・医療行政の中核の仕事で、政府に責任がある。感染者が増えれば、経済にも負の効果が及ぶ。

今回の教訓に学ぶため、3点、申し上げたい。

一つ目は政府の実行力への信頼感だ。検査や医療体制が整備されていると国民や企業が信じられれば、経済活動回復のスピードは早まる。その結果、経済を支えるための巨額の財政負担の期間もより短くできる。

これには工程表が大事だ。政府はこう考え、いつまでにこれを実施すると分かりやすく説明してほしい。

日本はなぜ感染者が少ないのか、検査数やデータは信頼できるのかという疑問の声が諸外国から絶えない。感染者数が実際に減っても、国として信頼されていなければ訪日は敬遠され、東京五輪開催にも響く。

二つ目は、現場支援の強化だ。検査・医療はもちろん、教育や子育ての現場への支援が必要だ。日本の働き盛りの世代は今、仕事も家事も子育てもした上で、学校教育まで家ですることを求められている。親の負担もさることながら、教育の質が問われる。また、家庭のネット環境の相違で格差が拡大しかねない。

三つ目は、本気のデジタル化だ。政府による行政の電子化はかけ声に終わってきた。今度こそ本当に変わったと思える結果がほしい。

パネル討論 日本発の共通基盤作り 甘利氏/成長戦略に「オンライン」 高橋氏/医療・教育 現場支援厚く 川本氏 

――新型コロナウイルスの短期的な課題と対策を聞きたい。今年度の第2次補正予算案では何が必要か。

高橋氏地域の医療体制が逼迫(ひっぱく)しており、患者の受け入れと検査の態勢強化が依然、必要だ。資金繰り支援では、特にフリーランスの収入の落ち込みが大きく、手当てが求められる。観光や消費関連の中小企業に対しては、売り上げ減少対策に加え、家賃補助や雇用維持のための助成金といった固定費の支援が重要だ。

 金融安定への目配りも大事だ。大企業にとっても、今後は資金繰りが心配材料となるからだ。成長戦略としてデジタル化を進めることは需要創出の柱となる。

川本氏事業分野ごとの差が非常に大きいので、打撃を被った所に重点的に補正予算を付けるべきだ。スピードが求められている。医療、看護、保育、教育、介護などの分野は負担が非常に増えたのに、報酬がそれほど高くない。手厚いサポートと予算が必要だ。

甘利氏2次補正では、1次補正の網で支え切れなかった学生やフリーランスについて、より手厚く対応するだろう。家賃補助は、中小・小規模事業者では月額50万円、個人事業主は25万円をそれぞれ上限に、半年分支給する。雇用調整助成金の日額上限は、8330円から1万5000円に引き上げる。世界トップランクの国に並ぶ支援となる。

 航空会社など大企業の内部留保も今後払底する懸念がある。最終的には、資本性の資金を注入することが大事だ。超長期で金利が非常に安く、再生したら後は資金を回収できるような劣後ローンを迅速に届けることが大事だ。

〈劣後ローン〉

会社が倒産して資産を整理する際、返済の順番が劣る借入金のこと。帳簿上は債務に分類されるが、株式と性格が似ているため、金融機関からは負債ではなく自己資本とみなされ、借り入れる会社側には、財務面の悪化を避けられる利点がある。

――テレワークやオンライン診療が拡大し、日本が出遅れたデジタル分野の進展が期待されるが、今後の進め方は。

川本氏最近は大学院の授業はオンラインで実施しているし、企業の役員会もテレビ会議となったが、ほとんど問題はない。通勤で電車に乗る時間が年500時間も浮いて、新しい資格が取れるという話を聞いたことがある。

 オンライン診療も、どんどん進めれば良い。オンライン授業は、小学生、特に低学年では親の助けがないと難しく、これが格差の原因となることを避けて進める必要がある。

写真:フォーラムの様子
オンラインでライブ配信された読売国際会議(左から甘利明氏、高橋進氏、川本裕子氏)=18日午後、読売新聞東京本社で、杉本昌大撮影

甘利氏マイナンバー制度が他の先進国並みに行き渡っていれば、かゆいところに手が届く、メリハリの利いた政策が素早く実行できたはずだ。自民党で法律を作ろうとしているが、議員立法は与野党の一致により成立させるのが原則なため、一部の党が反対するとできない。理不尽だ。

 米国では、80年前から社会保障番号制度が普及し、銀行口座を作るにもこの番号が必要だ。日本では個人情報保護法がしっかりできているし、マイナンバーの安全性も高いのだから、マイナンバーと銀行口座をひも付けできるよう、法改正しなければならない。今がタイムリミットだ。

高橋氏私が参画している政府の規制改革推進会議は、緊急的な措置として、オンラインによる診療と授業の拡大を厚生労働省や文部科学省に求めた。慢性病の患者が病院に行かずに薬をもらうことができれば、院内感染のリスクがない。全児童へのパソコン配布は前倒しが決まったが、そもそも日本は他国より10年は遅れている。

 民間企業は、判子を押さなくても契約書や見積書のやり取りができるように協力すべきだ。役所には対面で文書を提出している例が多いが、法律で明確に求められておらず、やめられるものは多い。

 橋などインフラ点検も、人の目視が指針で求められている例が多いが、ドローンを使ったチェックで済ますことを認めるべきだろう。

――「コロナ後」の時代、日本は何で勝負するべきか。

川本氏今後、サプライチェーン(供給網)の見直しはやむを得ないが、「すべてを日本国内で」ということになれば次の危機への脆弱性が高まりかねない。自給自足は善という発想は幻想で、むしろ一層の多様化が必要だ。例えば中国だけに依存せず、日本国内と複数の国に拠点を持つことが大事になる。

 国境の壁は高くなろうが、日本は環太平洋経済連携協定(TPP)を推進する自由貿易大国という旗を降ろすべきではない。日本は通商国家であり、今をチャンスととらえるべきだ。この際、米中両国以外の国とどれだけ深くつきあってネットワークを作れるかがカギだ。日本がプラットフォームを提供し、他国に集ってもらう。このため日本は一層国際化する必要がある。

――甘利さんは担当相として、TPPを推進してきた。

甘利氏コロナ禍のために国際交流が減り、各国が内向きになることを危惧している。世界のGDPは国際貿易の進展に比例して伸びたことを忘れてはならない。

 (米インターネット通信販売大手の)アマゾンや(米動画配信の)ネットフリックスのように、現状下で業績を伸ばしたビジネスモデルがある。(ネット上の)バーチャルなプラットフォームだ。

 日本はこれにはなれないが、リアルデータという強みを持つ。日本は信頼できるデータの宝庫で、リアルなプラットフォームとなるような経済戦略が必要だ。

〈リアルデータ〉

インターネット空間で大量に発生する「バーチャルデータ」に対し、医療や介護の現場、自動車事故など実世界から得られる情報。

高橋氏中国は今後、デジタル版の「一帯一路(巨大経済圏構想)」を抜け目なく推進して来るだろう。デジタル化を通じて関係各国を取り込もうという動きで、日本もアジア太平洋地域を中心に負けないことをやらなくてはならない。

 日本はデジタル分野では遅れているが、都市計画や交通網整備などで実績がある。希望する国と協力し、その国のデータを集め、活用するシステムを作る。日本はデジタル人材が不足しているから、逆に人材育成でもアジア諸国と一緒にできることは多い。

――新時代の人材育成、教育とはどうあるべきか。

甘利氏世界の一流大学を見ると公的助成はさほど増えていないのに年次予算は伸びている。大学発の新興企業を育て、自ら稼いでいるからだ。

 大学、企業双方に意識改革が求められている。例えば欧米では博士号取得者が民間企業に行くことがよくある。日本でも博士が企業の知恵袋として活躍できるような環境作りが必要だ。

高橋氏日本は大学を卒業して社会に出たら、その後、教育を受ける機会がほとんどない。企業も人材育成をないがしろにしてきて、そのつけが来ている。今、人材育成に予算を使わなければ日本は今後何十年も出遅れかねない。企業も内部留保をもっと使うべきだ。

川本氏大学と企業の垣根を下げることが大事だ。大学は卒業の要件をもっと厳しくしないと専門性が育たない。専門家たる博士を企業が生かす仕組みを作らなければならない。一定の分野の専門家に対する敬意が社会全体に足りないからこうなる。

――今回の危機を乗り越えるためのキーワードを提示していただきたい。

写真:コーディネーター 黒川茂樹
コーディネーター 黒川茂樹

川本氏 「〈1〉政府への信頼感〈2〉現場支援の強化〈3〉本気のデジタル化」としたい。政府への信頼感が民間部門の経済復興には大切だ。また、今まで「やるやる」といって、何年間もできなかったことを進めなくてはならない。

写真:川本裕子氏
       川本裕子氏

高橋氏「コロナは構造変化を加速する――デジタルファーストの徹底を」が1番のメッセージだ。日本の成長戦略にはデジタル化が必要だ。医療、介護、交通、環境エネルギーなど日本が世界をリードできる分野は特定されつつある。デジタルファーストとは、デジタル化を前提にすることだ。判子を例にすれば、前提としてなくすと決め、どうしても必要なところだけの対応を考えれば良い。

写真:高橋進氏
       高橋進氏

甘利氏私は「デジタルニューディール」とする。「コロナ後」に、前の時代に戻るのではなく、局面が進化した社会を創る決意を込めた。米国が中国と対立を深め、欧州の同盟国ともけんかする中、日本には自由、民主主義、法の支配といった共通の価値観をつなぐ役割がある。中国のような権威主義的な国を民主的ルールに巻き込む作業もしていかねばならない。日本の産業界には、世界の共通基盤たるプラットフォームを握ってほしい。世界が必要とするプラットフォームとなることが大切だ。  

写真:甘利明氏
       甘利明氏
〈ニューディール〉

1929年の大恐慌による世界経済危機からの脱却を目指し、33年に就任したルーズベルト大統領が打ち出した一連の経済政策。テネシー川流域開発などの大型公共事業による失業者雇用や社会保障制度の確立が柱。

(2020年05月23日 読売新聞)